Vol.21 音楽出版社との著作権契約問題(後編)
月に一回、いではくが飲み屋さんへ行って軽く酒とつまみをやりながらテーマに沿った話をする「酒と話」。このブログで特に反響が大きかった「Vol.08-09 音楽作家から見た音楽出版社の問題点」。音楽業界だけでなく、もっと広くこの問題の実情を知ってもらおうと、長年、音楽作家の権利擁護と社会的地位向上に取り組んできたFCA(日本音楽作家団体協議会)からエンドウ. 常任理事をお迎えして最近の著作権契約に対する活動を説明してもらいつつ、”今”の音楽出版社との著作権契約問題について語り合うスペシャル対談を企画しました!
「FCAアンケートの実施(前編)」、「著作権契約内容(中編)」と続いて、いよいよ最終回「これから 〜音楽作家が理想とする音楽出版社とのパートナーシップの構築〜」です!!
エンドウ.常任理事(以下、エンドウ.)
FCAでも考えているんですけど、音楽出版社(以下、出版社)と対話していくにあたって、何か旗印を掲げなければならないとなった時に、シンプルにまずは「対等な関係」でなければおかしいでしょう、と。一方的に送りつけられて、契約しないんだったら干すよ、みたいなのはおかしい。
それから「自由度のある契約」のある契約ですよね。要は幅広い選択肢と柔軟性です。(出版社の印税の)取り分が50%か33%かの2択だけなんておかしいし、例えば5%、10%でやってくれる出版社が当然出てくるべきですから。
3つ目に「透明性の確保」ですけど、作品管理の状況、利用開発してるかどうかについて出版社から作家への説明が尽くされているかですよね。我々、作家が把握できて、利用開発してないんだったら文句を言って、こういう利用開発をしてください、という協議があって、(出版社側から)「では、こういう方法はどうでしょう?」という提案があって、みたいなやり取りがあって、ようやくちゃんとした契約関係になりますから。
最後に「国際標準」ですよね。こないだ(FCAの)著作権対策委員会で、国際標準の契約内容はもちろん、国際標準より先の「未来標準」っていう理想を求めていきたいという話になりました。日本がリーダーシップをとって、もっとクリエーターにとって良い契約っていうのはコレなんだよって世界にアピールできたらいいですし。
いではく(以下、いで)
俺が思うに出版社はもう一度自分たちの役割は何なんだ、という”原点”に立ち返ってからスタートしないと。例えば契約書なんかでも、まず(作家に)送ってくる、俺はそれを読んで「この条件では飲めないから、上と話がしたい」って電話しても、「今、席外してるんで」とか言って出てこないのよ。出版社なんて契約書の処理と金の計算くらいしかしない、数人しか働いていない会社がほとんどなのに、なんで上司が電話に出れないんだよ(笑)。
やっぱり何で(楽曲を)預かってるか忘れかけてるって事ですよね。契約している曲を利用開発して、頑張って売るために預かっていることを分かって仕事している人が出版社にどれだけいるんでしょうか。
いで
まぁ少ないと思うよね。事務手続きだけをやってる出版社の方が多いんじゃないの。
でも彼らはクライアントやタイアップ先と強く結びついているので、我々と全く対等な関係ではないんですよ。
こういう話題が持ち上がって、「いで先生、よく言ってくださった!」となってもいざ自分が言えるかとなると、出版社と目を合わせることもできないってみんな言うんですよ、怖いって。全く対等でない。僕も実際、某音楽出版社に行って、もっとこういう契約にしてくださいってお願いしたんですけど、まぁできないし、今後エンドウ.さんとお仕事はできないですねって言われたんですよ。面と向かって言われましたよ。
これって出版社に文句言うと干されるっていう都市伝説的な話がありますけど、全然現実で「これから先はあなたに仕事ありませんから」って初めて言われて、これは面白いなぁと(笑)。本当にこういうことがあるんだと良い経験でした。
それから「透明性の確保」で言えば、僕は最近では10年契約だったら、今後10年の利用開発プランをくださいと(出版社に)言うんですよ。でもどこもくれないです。
いで
1年だってできないんじゃない?(笑)
でも、あなたが給料の半分を持ってかれるとしたら、なんのプランもないところに給料半分渡します?って話なんですよ。でも彼らは何にも出してこないんですよ。ひどいなぁと。
そもそもプラン以前に出版社の人に会ったことがある作家がほとんどいないんですよ。更に電話したことがある人もめったにいません。で、一方的に契約書が送られてくるんです。出版社じゃなくてレコード会社やクライアントから「契約書が送られてくるんでサインして送り返してくださーい」としか言われない。ですので、出版社とコンタクトを取ったことがある人がかなり少ない上に、契約書の内容も分からずサインする作家も沢山います。利用開発っていうものがこの世にあって、それを確認しなくては、と考える作家が少ない。
僕が確認したところ、何もされてなくて、「リリース時に〇〇という深夜番組のエンディングテーマで週一で計4回流れましたよ」って言われたんですよ。だから、その後はどうですか?って出版社に聞いたら、「何もやってません。そのタイアップの為の契約ですから」と。いや、(契約期間が)10年間あるんですけど、その後は何もしてくれないんですか?「そうですねぇ」と平然と言ってくるんですよ。「え!何もやってくれないんですか?」って言ったら、「んー、じゃあ検討してみます」で終わりです。
(『北国の春』でも『すきま風』でも)売れたら、それで終わり。新たな利用開発なんてまず考えない。どちらもパチンコ台で使われた事があるけど、これもパチンコ台メーカーから来た話なのか、出版社が売り込んだのか俺らには分からない。冒頭で出た「透明性の確保」だよね。利用開発が不明瞭過ぎる。
エンドウ.
でも何度か出版社に要求したこともあるんですよね?
もちろん。利用開発できないんなら返せ、と。まぁそう言っても絶対返さないけど。
エンドウ.
利用開発するとは言わないんですか?
言わない(笑)。ひどい出版社なんか電話が繋がんないからね。そこまでくると完全な契約不履行だから。裁判も視野に入ってる。
エンドウ.
そうなんですよね。僕も何かあったら裁判してみたいな、というのがあるので、相手が渋った時には毎回そのことを伝えるんですけど、そうすると意外とどこも妥協案みたいなものを出してくるんですよね。
この間、ある音楽出版社に預けていた楽曲を返してくれって言ったら、「ちょっと勘弁してもらえないですか。確認したところエンドウ.さんの楽曲(アルバム曲)10曲契約している内8曲がカラオケ配信していないので、今後(利用開発として)カラオケ配信するのでどうでしょうか?」と。いやいや!10年前に預けた曲を今更カラオケ配信するって言われても、ですよ(笑)。当然お断りして解除してもらいました。
俺だって契約前に言うもん、(出版社に)プロモーションのメニューを出してくれって。だけど、放送局系の出版社が1、2社だけ、具体的な番組名や系列局のネットワーク番組名を出してきたのは。(作詞家)50年以上やってて、1、2社だけだよ?
エンドウ.
かなりおかしい状態ですよね。利用開発プランを出す出版社って日本にあるんですかね?海外は言いますね。こうこうこういうプレイリストにピッチングするよ、とか。
だいたい大手の出版社は曲持ち過ぎなんだよ。2万曲とか持っててどうやって全ての曲を利用開発するんだって話だから。つまりさ、彼らはウチはこんなに沢山の曲(財産)を持ってるよってアピールしたいだけなんだよ。だから返してくれって言っても、減るのが嫌だから返さない。
先日、ある大手音楽出版社の若い社員さんとお会いして色々話したんです。出版社にこう言う不満を持ってて、お話聞かせてくださいよ、と。そしたら「あぁ確かに出版社は契約件数、例えば年間10曲契約するのが8曲になってしまってもしょうがない。契約件数よりも(契約してる曲が)1曲解約になる方が恥と考える」と言ってました。上の人たちはそう捉えるんで、解約になったらものすごい事件というか、何やってんだ!って感じらしいです。曲が出ていくことが怖いっていう風に聞きました。ですので、いで先生のおっしゃる通り(曲)数が減るのは絶対許されない。
今では解約する人が僕の周りでも増えてきましたけど、解約=恥、あってはならない事、というのが出版社の本音だと強く感じましたね。
いで
印税も0円、分配も0円なのになんで(曲を)持ってる必要があるの?どういうメリットがそっちにあるの?って(出版社に)聞くと「ん〜」って言うだけでさ。だったら「返せ」って言うと、また「ん〜!」って(笑)。
分かります(笑)。
作家にとって、もう利用開発する出版社という姿が幻のような存在になっていると思うんですよ。だってプロモーションって昨今では出版社だけがやる事じゃないんですよね。プラットフォームがやる事だったり、クリエーター自身がやったり、いわゆるプロモーション会社がやったりすることで、権利を持ってる出版社がやるものだ!っていうのが果たして今のご時世正しいのか。
今やSNSを使って自分で広告打てるじゃないですか。即ち広告代理店ってなんだろうっていう時代になってきているのと同じで、出版社って何だったんだろうねっという時代がいずれくるのでは?と思います。
僕がよく例に出すんですけど、賃貸の礼金と同じで、礼金って何だったんだろうねっていう時代になり始めてる訳ですよ。礼金って何だ?ってみんな気づき始めてきて、段々なくなってきていますよね。利用開発してくれない音楽出版社も礼金みたいなもんかなと、僕なんかは思いますけどね(笑)。
いで
最後に一つ言っとくことは、今回MPA(日本音楽出版社協会)要するに出版社の文句を言ったけど、作家自身もちゃんと勉強してかなきゃダメなんだよね。送られてきた契約書の契約年数をきちんと確認するとか、利用開発が何かを理解するとか、出版社の都合の良いようにはさせないぞ、という気持ちをみんなに持ってもらいたい。
いで先生がブログ*で出版社に物申すをやってくださって、それをみんな読んで如何に自分たちが考えてなかったか、ようやく身に染みて、自分の権利がどうなってるか把握しなきゃいけないってことに気付かされて、相当盛り上がった訳ですよ。今後の人たちはなっていくと思いますよ。JASRAC前会長という立場の方が、あんな事を言ってくれたってのは何にも勝る勇気だったんで。
出版社に物申す気持ちを持って良いんだ、と。遅いかもですけど、ようやくみんな持てたので。最近は相談も増えましたし。間違いなく意識がそういう所に向いてきてます。
だからFCAとしてもそういうところを積極的に活動して、更に啓蒙していかないといけないなと思います、本当に。
3回にわたってリリースしてきたスペシャル対談「音楽出版社との著作権契約問題」。いかがだったでしょうか?
次回は「JASRAC会長」(11/15リリース)です!!