Vol.09 音楽作家から見た音楽出版社の問題点(後編)

 


月に一回、いではくが飲み屋さんへ行って軽く酒とつまみをやりながらテーマに沿った話をする「酒と話」。第9回は、前回に続いて『音楽作家から見た音楽出版社の問題点(後編)』です!

「音楽出版社」とは、音楽著作物の管理・プロモーションなどを行う事業者である。

通常、メジャー流通でリリースされた楽曲に関しては、作家(作詞家、作曲家)と音楽出版社との間で契約(著作権譲渡契約)が締結される。

音楽出版社は、窓口業務として、作家と契約した楽曲の管理・プロモーションを行い、得られた著作権使用料から契約で取り決めた比率に従って、印税として作詞家、作曲家に分配する。

例えば、契約の分配比率が音楽出版33%、作詞家33%、作曲家33%の場合、著作権使用料が99円であれば、音楽出版社の取り分33円を差し引き、作詞家に33円、作曲家に33円が分配される。

現在、日本にはレコード会社系列、芸能プロダクション系列、放送局系列とさまざまな音楽出版社*がある。



契約期間

 (前回取り上げた著作権印税の分配率の問題*に加えて)もう一つ問題なのは、当時の統一契約書は著作権の契約期限が「著作権存続期間中」、つまり著作権が切れるまで、未来永劫契約は変わらない、途中で打ち切れない、そういう契約書しかなかった。だから俺のいくつかの作品も実際、今でもそういう状態になってて、だけどこれは非常に理不尽な話なわけ。本来なら音楽出版社が契約した作品を利用開発する(売る)ためにプロモート費用として取ってるはずのパーセンテージが、そういう活動を全くしなくなったのにも関わらず、契約通りの33%なり50%を取ってる。これは大問題だろうと。要するに契約書に謳われている労力、仕事をしないのにも関わらず印税だけは取ってくっていうのはおかしい。だからこれは何とかしないといけない問題だと思う。自分自身だけじゃなくて全作家ために。
 だからこの2つだね、作家側からした音楽出版社の問題点は。契約期間の問題と取り分(パーセンテージ)の問題。
 ちなみに取り分の問題は、作家自身も考えなくてはいけない問題で、大変だろうけど契約時に音楽出版社に対して自己主張をしてかないとダメだと思う。



変えられない契約

 もちろん契約を変えてくれって掛け合ったことは何度もあるけど結局は相手との話し合いだから、相手が「いや契約書は有効だから」と話し合いに応じない、拒否する場合もたくさんある。

 40年前の歌でとっくに廃盤になっているにも関わらず、その権利だけが続いている。作家はまたこの作品を活かしたいな、と思っても活かせないのよ、契約書の縛りがあるから。

 例えば、ある音楽出版社と契約したAという作品があって、そこは何にもプロモートしてくれない。そこに別の音楽出版社が来て「Aという作品がすごく良いんで、うちと契約してくれたらプロモーション頑張ります」と言われても、"永久"契約書があるために、出版社を変えられない。つまり永久に音楽出版社を作家の方で自由に選べない。

 本来なら、プロモーションしてくれないなら契約打ち切って、別の熱心な音楽出版社に預けたい。作家にとっては自分の作品にも関わらず自由にできない。プロモーションしてくれないなら、自分で身銭切ってやるしかない、それで売れても3分の1なり半分なりはしっかり印税を音楽出版社に取られる。そんな不合理なことがあるかと。

 これは今の若い作家も直面している問題。


 俺の場合は直接、音楽出版社から仕事をもらったことは一度もない。みんなレコード会社のディレクターさんとかプロデューサーさんから話をもらって作品作りをして、あくまでもその作品が出来てから、音楽出版社は後乗りで「この作品はうちで預かることになりました」みたいにくるワケだよ。俺にしてみたら「そんなこと(作る前から)聞いてねぇよ」と。だけど、もう作品作っちゃってるし、発売したらどっかがプロモーションしなきゃならないから契約してるだけだから、こっちは。もちろん契約はするけど、その代わり今はこっちの主張を聞き入れてもらった条件にしてもらっているけど、昔はそれが出来なかったからね。

 例えば契約期間を5年にするとか3年にするとか、更新期間を毎年にするとか。



 具体的な話をすると『北国の春』とかロングセラー曲は音楽出版社のプロモーションがなくてもカラオケで歌ってくださる方がたくさんいるから、印税が入ってくる。ってことは、音楽出版社は何にもしなくても印税が入ってくる。ましてや、その音楽出版社も発売当時『北国の春』に関わっていた人たちなんか誰もいなくて、全く面識のない人たちがやってる。そんなんで本当に今でも愛情持って『北国の春』をプロモートしてくれてんの?って作家としては思うわけ。




問題解決へ

 この問題を解決するには法律を変えるか裁判かしかない。二者択一。話し合いを望んでも取り合ってもらえないなら裁判しかない。裁判になって作家の主張が認められる判例が出れば、音楽業界の流れも変わってくると思う。戦後、このシステムが導入されてから、数十年経って浮き彫りになった問題点。最初の方はプロモーションはしてるんだけど、何十年もたった曲はプロモーションしてない、でも契約は永久という矛盾が鮮明になってきた。

 アメリカは35年法*というのがあって、契約してから35年経って作家が返しなさい、と言ったら返さなきゃいけない合理的な法律があるんだよね。日本は音楽出版社というシステムを輸入しただけで、その後アメリカのように法律をブラッシュアップしてないから、矛盾がおきて作家にとって不利益な状態が続いている。ただ、音楽出版社からすると何にもしなくても永久に印税が入ってくる既得権だから、余計なことをしてくれるなと。

 今まで一人の作家がこの問題点を指摘して裁判を起こすとか、法律を変えるアクションは誰もしてきていない。だったら一石を投じるためにも俺がやってやろうかと。まぁ仮に作家に有利な判決が出れば、他の作家も同じような裁判を起こすかもしれないし、そうなると全音楽出版社は「いではく憎し」となるだろうけど、作家には喜ばれる(笑)!

 個人の契約のこともあるけど、今後も作家が同じような目にあうのは忍びない。だから制度を変えるには誰かが先鞭を切らなければならない。俺なんか年齢的にも立場的にも今さら何かやったがために作品依頼がなくなるよ、とかそんなことは俺は恐れてないから。理不尽なことは理不尽だときちんと世の中に伝わって欲しいし、これからの作家の立場の為にも「作家も主張するんだ!」という事を示したいよね。





今回はこれまで。いかがだったでしょうか?
第10回は11月15日にリリースします。テーマは『競馬』。お楽しみに!


さまざまな音楽出版社* https://mpaj.or.jp/outline/member/list
35年法* アメリカ著作権法の終了権のこと

【いではく プロフィール】
作詞家。1941年、長野県南牧村生まれ。早稲田大学商学部卒。
主な作品:「北国の春」(千昌夫)「すきま風」(杉良太郎)「早春情歌」(小林旭)「さっそく振込みありがとう」(順弘子)「昭和流れ歌」(森進一)など。
JASRAC第16代会長(任期:2016〜2022年)

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