Vol. 33 とうさんの手紙

 

月に一回、飲み屋さんで軽く酒とつまみをやりながらテーマに沿った話をする 「酒と話」。新シリーズ『自分の中のヒット曲たち』の10曲目です!!

“作詞生活50数年。600曲以上を作ってきた中で、売れなかった曲の方が圧倒的に多い。だけど、(売れなくても)作詞家として「良い歌が書けた」と思う歌がたくさんある。いつかその自分が気に入っている歌だけを集めた盤を世に出したいと思ってる。それが俺の作詞家としての集大成”


とうさんの手紙 歌:徳永ゆうき 作曲:ミヤギマモル 2015年 / ユニバーサルミュージック


まずこの歌詞を作るきっかけは、元ユニバーサル(ミュージック)の山川ディレクターとのA面(夢さがしに行こう*)の打合せ中の雑談で「落ち込んだ時に何で気持ちを立て直すか」みたいな話になったんだよ。で、その時に山川さんが言うには「自分は父親からもらった手紙の中のたった一言で気持ちが吹っ切れたことがありました」っていうの。で、それは何?って聞くと、「人生は長いから」という一文ですって。それを聞いて「あぁ、”人生は長い”ってフレーズは歌になるなぁ」と思ったのが始まり。

若い時って時間が長く感じる。特に嫌な事はね。例えば子供の時の授業の時間ってすごく長い。俺は勉強嫌いだったから(笑)。それと同じで青春時代も楽しくやってる時は良いとして、やっぱり気持ちが落ち込んだり傷ついた時の時間ってすごく長く感じると思うんだよね。そんな時に父親から「人生は長いんだから、そんなに焦ったりしないで、のんびり構えていなさい」といった手紙をもらったら、沁みるだろうなぁと。それで「青春時代」と「人生は長い」をテーマに歌を書いた。



主人公がどういう状況にあるかをまずは(歌の)出だしで描きたいと思ったんで、都会で一人暮らしをしている古いアパートの郵便受けにある日突然父親から手紙が届いた、という書き出しにした。で、手紙を読む場所は普通部屋なんだけど、それだと周りの情景を描きにくいんで、その手紙を持って家の近くの公園へ持って行って、そこで読むっていうシチュエーションにした。そっちの方が、聴く人それぞれが季節感とか色々想像できるから。



この歌の作曲は何度も一緒に仕事をしているシンガーソングライターのミヤギマモル*さんで、ディレクターから少しテンポの早いワルツの曲で、というオーダーを受けて作った曲なんだよね。それは詞も含めて若い人たちにも聴いてもらいたいという意識がみんなの中にあって作った歌だから。ディレクターとしては徳永ゆうきさんのファン層をもっと広げたいという狙いもあったし、作家もいろんな人に聴いてもらいたいしね。ただそれが上手くいったかと言えば、必ずしも満足のいく結果にはならかった、残念ながら。

自分としてはよくできた歌だし、若い人たちに聴いてもらえれば共感を得るところも大きいと思うから、やっぱりもう一度(若者に向けて)発信したい気持ちが強いよね。


今は伝達方法が手紙じゃなくて携帯メールだと言われればそれで終わりだけど、やはり大事な事を伝えるのはレトロだけど残る手紙だと思ってる。


それから最後に、徳永(ゆうき)さんについて言えば、もう一度彼の歌を書きたいと思ってる。彼独特の音色と節回しはとても魅力的だし、その歌声に合った歌を書いてみたいんだよね。


今回はこれまで。いかがだったでしょうか?
第34回は『街角』(呉小芸)、12/15リリースです。お楽しみに!

夢さがしに行こう 歌:徳永ゆうき 作曲:ミヤギマモル 編曲:伊戸のりお プロモーションビデオ

ミヤギマモル 沖縄県石垣島出身のシンガーソングライター


いではく プロフィール
作詞家。1941年、長野県南牧村生まれ。早稲田大学商学部卒。
主な作品:「北国の春」(千昌夫)「すきま風」(杉良太郎)「早春情歌」(小林旭)「さっそく振込みありがとう」(順弘子)「昭和流れ歌」(森進一)など。
JASRAC第16代会長(任期:2016〜2022年)

All Rights Reserved. Text & Images @ Godrillhas Production

今月のお店:Bar Español LA BODEGA


このブログの人気の投稿

Vol. 31 回転木馬(メリーゴーランド)

再掲:音楽出版社との著作権契約問題(一気読みバージョン)

Vol. 32 一献歌