Vol.08 音楽作家から見た音楽出版社の問題点(前編)
「音楽出版社」とは、音楽著作物の管理・プロモーションなどを行う事業者である。
通常、メジャー流通でリリースされた楽曲に関しては、作家(作詞家、作曲家)と音楽出版社との間で契約(著作権譲渡契約)が締結される。
音楽出版社は、窓口業務として、作家と契約した楽曲の管理・プロモーションを行い、得られた著作権使用料から契約で取り決めた比率に従って、印税として作詞家、作曲家に分配する。
例えば、契約の分配比率が音楽出版33%、作詞家33%、作曲家33%の場合、著作権使用料が99円であれば、音楽出版社の取り分33円を差し引き、作詞家に33円、作曲家に33円が分配される。
現在、日本にはレコード会社系列、芸能プロダクション系列、放送局系列とさまざまな音楽出版社*がある。
終戦後、アメリカのシステムを当時の渡辺プロがいち早く目をつけて、日本に導入したのが日本における音楽出版の始まりだったと思う。
それまではレコード会社が専属作家制をとっていたんで、レコード会社は作家と直接契約してて、プロモーションとかも全部レコード会社自ら行っていたの。専属だから他のレコード会社と仕事はできないんだけど、レコード1枚売れたら、⚪︎円払います、みたいな契約をレコード会社と作家でしてた。
そんな中、初めて渡辺プロが、フリーの作家の「楽曲」を預かって、それをプロモーションをする音楽出版部門というのを立ち上げた。音楽出版はプロモーション費用として作家の著作権印税の何割かをもらう、という新しいシステムを作ったの。つまり作家と契約するんじゃなくて、作家の作った曲と契約するシステムを作ったわけ。
ってことで、音楽出版ができてからは、著作権印税を作詞家、作曲家、音楽出版社の3者で分けるようになった。そうすると音楽出版社が歌を売るためにどのくらい尽力してくれるかなんかによって印税の取り分のパーセンテージの割合が変わってくる。結果、力のない新人の作家はプロモーション費用がかかるからという理由で取り分が少ない場合も多かった。要するに音楽出版社が半分(50%)で残り半分を作詞家(25%)、作曲家(25%)で分ける、みたいな。もちろん作家に力があれば、音楽出版社(33%)、作詞家(33%)、作曲家(33%)みたいに取り分を上げることもできたけどね。
ただ、当時の作家は著作権印税に対する意識があんまりない時代だったから、力のあるプロダクションとか音楽出版社の言いなりになりがちだった。
俺は幸いにして、遠藤実というビッグネームの秘書をしていたんで、さすがに遠藤先生は「出版社が半分、作家が25%」なんて契約は承知しないで、33%の契約でやってたのを知ってるから、作詞家になってデビューした時に俺のところに25%の契約書が送られてくると、「どうして遠藤先生(作曲家)が33%なのに俺(作詞家)は25%なんだ」と結構きつく音楽出版社に言ったし、だったら契約しなくたっていいよ、と強気で出てたから、ほとんどの曲は33%で契約してきた。でも、そういう知識がない人は音楽出版社50%、残り50%を作詞家、作曲家で分ける、という契約を相当してたんじゃないかと思うよ。これはあくまで想像だけどね。
世間一般の人は音楽出版社という存在を知らないから、作詞家と作曲家の2人で印税を分けてるように思ってるだろうけど、実は良くて3分の1しかもらってないし、かつてはヘタをすると4分の1しかもらってない時代もあった。
まぁその傾向は今でもないとは言えない。新人は楽曲を出してもらえるだけでもありがたいから、強く言えないし25%(4分の1)でもOKです、と言ってる場合もあると思う。
ってことで、この取り分(分配比率)の問題は今でもずっと続いてるわけ。