Vol.19 音楽出版社との著作権契約問題(前編)

 


月に一回、いではくが飲み屋さんへ行って軽く酒とつまみをやりながらテーマに沿った話をする「酒と話」。このブログで特に反響が大きかった「Vol.08-09 音楽作家から見た音楽出版社の問題点」。音楽業界だけでなく、もっと広くこの問題の実情を知ってもらおうと、長年、音楽作家の権利擁護と社会的地位向上に取り組んできたFCA(日本音楽作家団体協議会)からエンドウ. 常任理事をお迎えして最近の著作権契約に対する活動を説明してもらいつつ、”今”の音楽出版社との著作権契約問題について語り合うスペシャル対談を企画しました!

10,000字を超えるロングインタビューのため、前編「FCAアンケートの実施」、中編「著作権契約」(10/1リリース)、後編「音楽出版社とのパートナーシップ」(10/15リリース)の3回に分けてお送りします。

それでは、前編「FCAアンケートの実施」をお楽しみください!!



FCAアンケート「音楽作家の実態・意識把握調査」実施について

エンドウ.常任理事(以下、エンドウ.) 

 まずアンケート実施までの経緯から説明しますと、数年前、僕は一度参議院会館に行ったことがあるんですよ。友人に「政策の兼ね合いで政策秘書さんと会うんで、エンドウ.さんも何か議員さんに言いたいことはありますか?」と声をかけてもらったんです。そこでクリエーター界隈の活動に重きを置いている議員さんや政策秘書さん、公正取引委員会の方に「音楽出版社(以下、出版社)の問題を解消するにはどうしたら良いですか」と相談したところ、「数が必要だよ」という回答をいただきました。団体でやらなきゃダメだし、何か(客観的な)資料がないとダメだ、と。「じゃあアンケートかな」と思ったんですね。

 本音を言うと当時「FCAは何もやってないのではないか」というお言葉を皆様からいただいていて、何かやろう、というのはずっとあったので。アンケートから浮かび上がった問題なら(資料として)どこかに出しやすいのかなぁと思って実施したのがFCAアンケート「音楽作家の実態・意識把握調査」*です。2021年秋に第1回目を行い、2023年1月に第2回を実施しました。


 FCAに加盟している団体はどこも高齢化が進んでいるんですが、やはり若い音楽作家(以下、作家)の意見も聞きたいということで正会員団体に所属していない方々にもご参加いただくために、(紙以外に)オンラインで回答できるアンケートにしました。

 その調査結果を報告書にまとめた他、報告書の概要を解説動画も作成してYouTubeで公開しました。

 FCAの存在理由「音楽作家の権利擁護と地位の向上」を実施していくためには、作家の実情を知るのは必要不可欠である、と。実際、作家の実情を今まで誰も調べたことがなかった。これを調べたらとても良いんじゃないかと思ったんです。ちょうど2021年がFCA設立35周年だったこともあって、周年事業と謳って大々的にやりました。

 第1回は(FCA)理事会で「(アンケートは)紙じゃなきゃダメだ!」という声が強くて()。紙だと多額のお金がかかったんですけど、そこは了承いただいて、最初は紙でやったんです。延べ3,000弱の会員に配って、その中でも800を超える回答をいただきました。お陰様で世間のアンケートと比較してもなかなか良い回答率でした。しかしとにかくお金がかかり過ぎたので、2回目からはオンラインだけになったんですが。

 それで色々な声を聞く中で出版社との契約に問題意識を持っている作家が多いという事がわかってきたんです。


アンケートで明らかになった事
アンケートをやる前にある程度こういう答えが出るかもしれないという予想はあった?

エンドウ.

 ありましたね。すでに(私の周りの)作家たちの話を聞いていても肌感で「何もしてくれない出版社が相当数ある」という風に思っていたので。そこを具体的な数字・資料として見てみたかった。

 あとは(印税の)取り分。みんな(出版社に)半分持ってかれて当たり前の顔してるけど、本当は嫌じゃないの?と。当然、全員嫌ですから。それじゃあ、やっぱり取り分の問題もあるんだと。「そもそも我々はJASRACに信託してるんだから、出版社はいらないでしょ?直接もらえるんだから」という声も以前からかなり多く聞いていました。だから、出版社に対する作家の正直な考えが答えとして出てくると予想していました。


アンケートをやる前とやった後で、若い作家とベテラン作家の回答の傾向が違うというのは予想していた?

エンドウ.

 はい。やっぱりご年配の作家たちは出版社と共に歩んできた、というお話をよく聞くので。MPA(日本音楽出版社協会)が出している「日本における音楽出版社の歩み」*という本を読んでも、昔はそうだったんだな、と。音楽を利用開発して発展していくために、海外に行って出版社という事業を考えたり、海外の曲を日本に持ってきてみたいな事を知ると、確かにそういう時代もあったんだろうとは思うんですけど、近年はそういう話は聞かないですから。

 だから予想してた事ですけど、ご年配の作家の方々は出版社を悪く言っちゃいけないっていう空気はアンケートでも感じましたし、実際にお話していても感じます。



いではく(以下、いで)

 作家が出版社に自分の作品の権利を預けてから問題になるのは主に3点。1つ目は出版社の本来の業務である音楽の利用開発、つまりプロモーションをやらなきゃならないのに、ただ預かりっぱなしで何にもしない出版社があまりにも多い事。2つ目は契約期間を一方的に(出版社)に決められて、しかも(契約期間が)長すぎる。中には(契約)年数が存続期間中、つまり著作権がなくなるまでずっとなんていう出版社事業が始まった時に作った契約内容が見直されもせず、未だに続いている理不尽さ。

 最後に利用開発するために作家側が(印税を出版社に)支払う、というのが普通の考え方なのに、なんで出版社の(印税の)取り分が一番多いのか、という点。

 作家としてはこの3つに不満があるのよ、出版社に対して。だからアンケートを取れば、その不満が吹き出すのは当たり前なんだよね。だから、(作家と出版社)双方が話し合って解決していくためにも、数字として(不満が)具体的に示されたアンケートの意義ってのはものすごい大きいと思う。


エンドウ.

 そう言っていただけると嬉しいですね。

 (印税の分配率の話で言うと)よく出てくる円グラフで半分が出版社、後の半分を作詞と作曲で分けるって、とんでもない事ですよね。これが(日本の音楽)業界では当たり前の慣習だって初めて知った時は驚きましたし、MPAの成り立ちの本なんかを読んでも、(草創期の頃は)男気ある出版社を作った人たちは、作家から分配率の事を言われても「だったら取り分を倍にしてやる。半分取る代わりに(印税を)倍にしてやる」って言ってやったって書いてあるんですよね。そんな事言われたら、なるほどな、じゃあお願いするよってなりますよ()。ただ、今そんなことを言う出版社なんて聞いたことがありませんし、出版社の力で倍にするなんてかなり難しいですもん。

 契約期間が10年というのも、一昔前、ヒット曲がちゃんとあって何年も同じ曲が聴かれてっていう時代では、もしかしたら10年でも良かったのかもしれませんけど、今はもう2、3年前の曲でも聴かれなくなりますから。それにアイドルとか歌い手だって数年で辞めてしまう時代なので。10年生き残るアーティストや歌手なんてほんの一部ですから。そんな時代に10年だって嫌なのに、一生、さらに死後70年預かるって異常ですよね。他にそういう業界ってないんじゃないですかね。周りに聞いてもなさそうですし、芸能界特有なのかな、と。


いで
 要は出版社がスタートした時の契約内容が未だに尾を引いてる。だから如何に当時の作家の著作権に対する認識が浅かったか、ということだね。

エンドウ.
 なるほど。やっぱり僕の周りの作家もまだ詳しくない方が多いんですけど。昔の大先生やら、日本歌謡黎明期に活躍された作家さん達も権利の事は考えなかったんですか?


いで
 考えてなかったと思うね。というのも、出版社ができる前は作家はレコード会社との専属契約制だったから。つまりレコード会社との契約で1枚レコードが売れたら何円っていう、収入源がレコードの売上げだけだったんだよね、基本的に。それからJASRACができて放送だとか多様的に音楽が使われて、印税が徴収される時代になると専属作家よりもフリーの方がお金が入るようになった。まぁ専属作家でもJASRACのメンバーになれば、レコード会社の支払いとは別に印税は分配されるんだけど。それはそれとして、出版社がフリーの作家の曲を集めてきて運営するようになった。専属契約制というシンプルな収入から多様な音楽利用という時代の変化の中で、契約内容まで頭が回らなかったんじゃないかな。
 それからさっきの「半分取る代わりに(印税を)倍にしてやる」って話はさ、番組に歌手をねじ込む力がある出版社とかはテレビやラジオなど多方面に発信して稼ぐ、その相乗効果でレコードも売れるんだからレコード会社に任せっきりよりは俺んとこに預ければ収入は増えるぞ、と。こういう論法でくるわけだよね。


エンドウ.

 実際に出版社の利用開発のおかげでヒットした、売れたっていうのはあったんですか?


いで

 うん。プロダクション系の出版社、あるいは放送局系の出版社なんかはね。自分のところで預かってる曲を歌ってるタレントを番組に出したり、番組の主題歌にしたりするから、それがヒット曲になれば、当然俺たちの利用開発、プロモートのおかげでお前の収入も増えたじゃないかって言い分になってくるよね。

 ところがテレビやラジオだって枠が限られてるんだから、誰でも彼でも出せないし、預かってる曲を全てプロモートできるわけがない。だけど出版社はそんなことはお構いなしに(曲を)集めるんですよ。


エンドウ.

 例えばレコードのシングルB面ならギリギリあれですけど、アルバムの何曲目なんて曲は利用開発しようがない場合が多いですよね。


いで

 そうそう!そういう曲まで全部いっしょくたに取り込んじゃって、あとは何もしねぇという。作家とすればプロモートしてる楽曲は預けてもいいけど、そうじゃない曲も全部まとめて契約させられるというのは納得できない。


エンドウ.

 そうですよね。

 アンケートの結果にもあるんですけど、標準契約書*の内容に問題意識を抱いている作家が多いんです。

 当時この契約書を制定した方々はこれによって、業界の標準の契約書ができたから変な文言を入れられなくなった、とおっしゃるんです。確かにこれは当時とても画期的だったと思うんですけど、今となってはこの全部固まったフォーマットの契約書"しか"ないので。しかもJASRACの分配規定にもあるように(出版社の取り分が)33%50%、要は1/3持っていかれるか半分持っていかれるかの2択しかないんです。それもスゴイ話ですよね。更に外国作品はフリーなんです!国内作品は2択なのにひどい差別なんですよ。

 まぁ33%ならまだいいですけど、現在では9割以上が50%の契約だそうです。実際、33%にしてくれって言っても、そんなのはほんの一握りの大作家だけなんでダメです、あなたは50%ですって言われちゃうんですよ。


いで

 この(標準)契約書が作られてから、かなりの年数が経ってるんで、今のご時世にあった契約内容にしていく時期が来てると思うね。

 今ならコンピューターが発達した時代なんで分配率も多様化に対応できる状態になってるはずだし。



中編(10/1リリース)に続く!次回は"著作権契約内容"について語り合います!!

FCAアンケート「音楽作家の実態・意識把握調査」* アンケート結果2023 アンケート結果2021

日本における音楽出版社の歩み* 刊行:日本音楽出版社協会 発行年:2003(初版)

標準契約書* 音楽作家と作品プロモートの役割を担う音楽出版社との著作権契約として、FCAと音楽出版社協会(MPA)が共同して制作した譲渡契約書のひな形。



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今回のお店:わらやき屋 新宿店

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