再掲:音楽出版社との著作権契約問題(一気読みバージョン)

 


2023年9月にリリースされたスペシャル対談「音楽出版社との著作権契約問題」。FCA(日本音楽作家団体協議会)エンドウ. 常任理事との対談は大きな反響を呼び、今でもこのブログの人気投稿として高い閲覧数をキープしている。10,000字を超えるロングインタビューだったため3回に分けて発表したが、まとめて読みたい!との声を多数いただいたので、リリースから半年経った今、改めて「一気読みバージョン」として再掲することにしました。
長年、著作権契約に問題意識を持ち続けている2人の熱い話を"一気"にお楽しみください!!


01:FCAアンケート「音楽作家の実態・意識把握調査」実施について

エンドウ常任理事(以下、エンドウ.) 

 まずアンケート実施までの経緯から説明しますと、数年前、僕は一度参議院会館に行ったことがあるんですよ。友人に「政策の兼ね合いで政策秘書さんと会うんで、エンドウ.さんも何か議員さんに言いたいことはありますか?」と声をかけてもらったんです。そこでクリエーター界隈の活動に重きを置いている議員さんや政策秘書さん、公正取引委員会の方に「音楽出版社(以下、出版社)の問題を解消するにはどうしたら良いですか」と相談したところ、「数が必要だよ」という回答をいただきました。団体でやらなきゃダメだし、何か(客観的な)資料がないとダメだ、と。「じゃあアンケートかな」と思ったんですね。

 本音を言うと当時「FCAは何もやってないのではないか」というお言葉を皆様からいただいていて、何かやろう、というのはずっとあったので。アンケートから浮かび上がった問題なら(資料として)どこかに出しやすいのかなぁと思って実施したのがFCAアンケート「音楽作家の実態・意識把握調査」*1です。2021年秋に第1回目を行い、2023年1月に第2回を実施しました。


 FCAに加盟している団体はどこも高齢化が進んでいるんですが、やはり若い音楽作家(以下、作家)の意見も聞きたいということで正会員団体に所属していない方々にもご参加いただくために、(紙以外に)オンラインで回答できるアンケートにしました。
 その調査結果を報告書にまとめた他、報告書の概要を解説動画も作成してYouTubeで公開しました。

 FCAの存在理由「音楽作家の権利擁護と地位の向上」を実施していくためには、作家の実情を知るのは必要不可欠である、と。実際、作家の実情を今まで誰も調べたことがなかった。これを調べたらとても良いんじゃないかと思ったんです。ちょうど2021年がFCA設立35周年だったこともあって、周年事業と謳って大々的にやりました。

 第1回は(FCA)理事会で「(アンケートは)紙じゃなきゃダメだ!」という声が強くて()。紙だと多額のお金がかかったんですけど、そこは了承いただいて、最初は紙でやったんです。延べ3,000弱の会員に配って、その中でも800を超える回答をいただきました。お陰様で世間のアンケートと比較してもなかなか良い回答率でした。しかしとにかくお金がかかり過ぎたので、2回目からはオンラインだけになったんですが。

 それで色々な声を聞く中で出版社との契約に問題意識を持っている作家が多いという事がわかってきたんです。


アンケートで明らかになった事

アンケートをやる前にある程度こういう答えが出るかもしれないという予想はあった?

エンドウ.

 ありましたね。すでに(私の周りの)作家たちの話を聞いていても肌感で「何もしてくれない出版社が相当数ある」という風に思っていたので。そこを具体的な数字・資料として見てみたかった。

 あとは(印税の)取り分。みんな(出版社に)半分持ってかれて当たり前の顔してるけど、本当は嫌じゃないの?と。当然、全員嫌ですから。それじゃあ、やっぱり取り分の問題もあるんだと。「そもそも我々はJASRACに信託してるんだから、出版社はいらないでしょ?直接もらえるんだから」という声も以前からかなり多く聞いていました。だから、出版社に対する作家の正直な考えが答えとして出てくると予想していました。


アンケートをやる前とやった後で、若い作家とベテラン作家の回答の傾向が違うというのは予想していた?


エンドウ.

 はい。やっぱりご年配の作家たちは出版社と共に歩んできた、というお話をよく聞くので。MPA(日本音楽出版社協会)が出している「日本における音楽出版社の歩み」*2という本を読んでも、昔はそうだったんだな、と。音楽を利用開発して発展していくために、海外に行って出版社という事業を考えたり、海外の曲を日本に持ってきてみたいな事を知ると、確かにそういう時代もあったんだろうとは思うんですけど、近年はそういう話は聞かないですから。

 だから予想してた事ですけど、ご年配の作家の方々は出版社を悪く言っちゃいけないっていう空気はアンケートでも感じましたし、実際にお話していても感じます。


いではく(以下、いで)

 作家が出版社に自分の作品の権利を預けてから問題になるのは主に3点。1つ目は出版社の本来の業務である音楽の利用開発、つまりプロモーションをやらなきゃならないのに、ただ預かりっぱなしで何にもしない出版社があまりにも多い事。2つ目は契約期間を一方的に(出版社)に決められて、しかも(契約期間が)長すぎる。中には(契約)年数が存続期間中、つまり著作権がなくなるまでずっとなんていう出版社事業が始まった時に作った契約内容が見直されもせず、未だに続いている理不尽さ。

 最後に利用開発するために作家側が(印税を出版社に)支払う、というのが普通の考え方なのに、なんで出版社の(印税の)取り分が一番多いのか、という点。

 作家としてはこの3つに不満があるのよ、出版社に対して。だからアンケートを取れば、その不満が吹き出すのは当たり前なんだよね。だから、(作家と出版社)双方が話し合って解決していくためにも、数字として(不満が)具体的に示されたアンケートの意義ってのはものすごい大きいと思う。


エンドウ.

 そう言っていただけると嬉しいですね。

 (印税の分配率の話で言うと)よく出てくる円グラフで半分が出版社、後の半分を作詞と作曲で分けるって、とんでもない事ですよね。これが(日本の音楽)業界では当たり前の慣習だって初めて知った時は驚きましたし、MPAの成り立ちの本なんかを読んでも、(草創期の頃は)男気ある出版社を作った人たちは、作家から分配率の事を言われても「だったら取り分を倍にしてやる。半分取る代わりに(印税を)倍にしてやる」って言ってやったって書いてあるんですよね。そんな事言われたら、なるほどな、じゃあお願いするよってなりますよ()。ただ、今そんなことを言う出版社なんて聞いたことがありませんし、出版社の力で倍にするなんてかなり難しいですもん。

 契約期間が10年というのも、一昔前、ヒット曲がちゃんとあって何年も同じ曲が聴かれてっていう時代では、もしかしたら10年でも良かったのかもしれませんけど、今はもう2、3年前の曲でも聴かれなくなりますから。それにアイドルとか歌い手だって数年で辞めてしまう時代なので。10年生き残るアーティストや歌手なんてほんの一部ですから。そんな時代に10年だって嫌なのに、一生、さらに死後70年預かるって異常ですよね。他にそういう業界ってないんじゃないですかね。周りに聞いてもなさそうですし、芸能界特有なのかな、と。


いで
 要は出版社がスタートした時の契約内容が未だに尾を引いてる。だから如何に当時の作家の著作権に対する認識が浅かったか、ということだね。

エンドウ.
 なるほど。やっぱり僕の周りの作家もまだ詳しくない方が多いんですけど。昔の大先生やら、日本歌謡黎明期に活躍された作家さん達も権利の事は考えなかったんですか?


いで
 考えてなかったと思うね。というのも、出版社ができる前は作家はレコード会社との専属契約制だったから。つまりレコード会社との契約で1枚レコードが売れたら何円っていう、収入源がレコードの売上げだけだったんだよね、基本的に。それからJASRACができて放送だとか多様的に音楽が使われて、印税が徴収される時代になると専属作家よりもフリーの方がお金が入るようになった。まぁ専属作家でもJASRACのメンバーになれば、レコード会社の支払いとは別に印税は分配されるんだけど。それはそれとして、出版社がフリーの作家の曲を集めてきて運営するようになった。専属契約制というシンプルな収入から多様な音楽利用という時代の変化の中で、契約内容まで頭が回らなかったんじゃないかな。
 それからさっきの「半分取る代わりに(印税を)倍にしてやる」って話はさ、番組に歌手をねじ込む力がある出版社とかはテレビやラジオなど多方面に発信して稼ぐ、その相乗効果でレコードも売れるんだからレコード会社に任せっきりよりは俺んとこに預ければ収入は増えるぞ、と。こういう論法でくるわけだよね。

エンドウ.

 実際に出版社の利用開発のおかげでヒットした、売れたっていうのはあったんですか?


いで

 うん。プロダクション系の出版社、あるいは放送局系の出版社なんかはね。自分のところで預かってる曲を歌ってるタレントを番組に出したり、番組の主題歌にしたりするから、それがヒット曲になれば、当然俺たちの利用開発、プロモートのおかげでお前の収入も増えたじゃないかって言い分になってくるよね。

 ところがテレビやラジオだって枠が限られてるんだから、誰でも彼でも出せないし、預かってる曲を全てプロモートできるわけがない。だけど出版社はそんなことはお構いなしに(曲を)集めるんですよ。


エンドウ.

 例えばレコードのシングルB面ならギリギリあれですけど、アルバムの何曲目なんて曲は利用開発しようがない場合が多いですよね。


いで

 そうそう!そういう曲まで全部いっしょくたに取り込んじゃって、あとは何もしねぇという。作家とすればプロモートしてる楽曲は預けてもいいけど、そうじゃない曲も全部まとめて契約させられるというのは納得できない。


エンドウ.

 そうですよね。

 アンケートの結果にもあるんですけど、標準契約書*3の内容に問題意識を抱いている作家が多いんです。

 当時この契約書を制定した方々はこれによって、業界の標準の契約書ができたから変な文言を入れられなくなった、とおっしゃるんです。確かにこれは当時とても画期的だったと思うんですけど、今となってはこの全部固まったフォーマットの契約書"しか"ないので。しかもJASRACの分配規定にもあるように(出版社の取り分が)33%50%、要は1/3持っていかれるか半分持っていかれるかの2択しかないんです。それもスゴイ話ですよね。更に外国作品はフリーなんです!国内作品は2択なのにひどい差別なんですよ。

 まぁ33%ならまだいいですけど、現在では9割以上が50%の契約だそうです。実際、33%にしてくれって言っても、そんなのはほんの一握りの大作家だけなんでダメです、あなたは50%ですって言われちゃうんですよ。


いで

 この(標準)契約書が作られてから、かなりの年数が経ってるんで、今のご時世にあった契約内容にしていく時期が来てると思うね。

 今ならコンピューターが発達した時代なんで分配率も多様化に対応できる状態になってるはずだし。



02:著作権契約内容

【標準契約書(著作権契約書FCA・MPAフォーム)】

音楽作家と作品プロモートの役割を担う音楽出版社との著作権契約として、FCAと音楽出版社協会(MPA)が共同して制作した譲渡契約書のひな形。

1988年バージョンと2001年バージョンがある。

2001年バージョンは、2001年10月の著作権等管理事業法の施行にあたり同法下の音楽出版社の位置づけを明確にするという目的で、文化庁が仲立ちしてFCAとMPAが協議して2001年3月に完成。1988年バージョンとMPAが独自に作成していた著作権契約書のひな形(MPAフォーム)を元に、これらを見直して作成された。

以降、種々の法律の制定やJASRACの管理委託契約約款の変更に対応して都度、改訂を重ねている。

エンドウ.
 契約書の1条と14条に"利用開発"という文言がある。まず契約書の1条に契約の目的が定められていて、この契約は利用開発するためのものである、と書かれています。これ、昔は違ったらしいんですよね。2000年以前のMPAフォーム*4は、契約の目的に「利用開発」という言葉さえ入ってない。つまり「譲渡するだけ」の契約書だったんです。ですので、僕はこの標準契約書に文句いっぱいありますけど、この契約書ができなかったらもっとひどい状態だった訳ですよね。
 少し話が逸れましたけど、1条、まずこの契約は「利用開発を目的としたものである」と。で、14条に「最大限利用開発の努力をする」という文言がしっかり明記してあるのに、利用開発してもらったことがあるって言ってる音楽作家(以下、作家)に僕は会ったことがないし、アンケートでもやっぱりされたことがないという回答が多かった。これはやっぱり契約の履行に問題があるなと。

それから契約書内容で問題なのが、契約期間ですね。

エンドウ.

 まず標準契約書の契約期間について少し説明させていただきます。

 2000年に標準契約書を作る時に契約期間の上限についてFCAMPA(日本音楽出版社協会)で双方言い分があったんですけど、調整できずにその部分についてはブランクにして当事者同士(音楽作家と音楽出版社)で決めろ、という形になったんです。で、3年経ったらもう一回現状がどうなのか見直そう、という取り決めがなされた。それでFCAMPA2004年から2007年にかけて話し合いをずっとやっていました。結局、具体的な年数の上限を決めることはできなかったんですが、音楽出版社(以下、出版社)は契約期間を長くしたいんです。なぜかというと契約期間が長くないと初期投資を回収できないからだ、と言うんですね。要するに作家を一人前に育てるには先行投資がいるんだから、それを回収するにはある程度の期間が必要だ、というのがMPA側の主張でした。

 ということなんですが、今、出版社に育成してもらっている作家なんてめったにいないですよ。昔はそういった事が実際あったんですか?


いで
 確かに昔はプロダクションなり出版社なりが若手の有望な作家だから、こいつにいっぱい仕事をやらして育てようとしてた所もありましたよ。だけど、今はプロダクションもましてや出版社が育てるなんてことはまずないと思うよ。

エンドウ.

 そもそもこの理屈が通用するのは自分たちが育てた作家だけですよね。外部の作家には通じないですよね、だって育てられてないんだから。


いで
 その通り。


エンドウ.
 確かに、ある音楽出版社には作家が何人かいるんですよ。けどその会社が取り扱っている楽曲は、その作家のだけじゃないんですよ。ありとあらゆる曲を持ってる。僕もその会社と契約してる曲がありますけど、何にも投資を受けてないわけですよ()。だから投資の回収に時間がかかるって言われても「いやいや何言ってるんだ、投資なんかされてない。初めて会いましたよ」って話ですから。


いで

 そもそも作家側が契約期間を決められないのはおかしい。更新制度があるんだから契約期間中の出版社のプロモート力を見て更新すればいいんだからね。何もしてくれなければ打ち切ればいいし、世話になったなと思ったら更新すればいいだけの話。今の歌のサイクルというか寿命とかを考えると契約期間は2~3年(が妥当)だろうね。


海外の契約内容ともずいぶん違うという話もありますが。


エンドウ.

 そうですね。まず、日本は著作権「譲渡」契約なんですよ。海外は管理委託、著作権は渡さない、というのがあって。それがまず大きな違いです。

 それからアドバンスですね。CISAC*5アジア太平洋地域代表のベンジャミン・グー(Benjamin Ng)さんという方とお会いした時に、日本(の音楽出版社契約)はこういう状況なんです、と説明したら、「でも、アドバンスはもらえるんですよね?」と言われたんですよ。アドバンスって海外では著作権預かって、出版社がきっちり取り分を持っていく代わりに先払いするよっていう、まぁ規模は100万なのか1000万なのか人によって分からないですが。

 ただ僕も含め周りでそんなものをもらった人なんて一人もいないんですよ。それを言ったらビックリされました。「無いの?無いのにそんな契約なの!?」と。日本はスゴイねぇって感じでしたけど。


いで

 昔はアドバンスってあったんだよ。特にレコード会社専属作家の時代には。例え3万とか5万でも。ただ印税が発生するようになれば、その分は当然差っ引かれるんだけど。だから、今でもそういう風にするっていうなら、曲によっては預けてもいいかとは思うけどね。

 でもアドバンスもなければ利用開発もしない、それでなんで預けなきゃいけないのか。ましてやさっきも出てきたけど、LPの中の1曲とかね。なんで欲しがるのかねぇ。

 多分ね、もう音楽出版社自体もなんで(作家と)契約してんのか訳わかんなくなってると思うんだよね。何でもかんでもディレクターから〇〇という作家に発注しましたって話が来ると自動的に自分のところが預かるもんだと思い込んでやってるから。


エンドウ.
 おっしゃる通りですね。(FCA)著作権対策委員会でも出た話なんですけど、今働いている出版社の人たちは今までの慣習と上からの指示で、こういうものだっていう感じで作家に(契約書を)送ってきてるみたいで。若い作家達が、「いや、存続期間契約は嫌なんですけど」「自分の顧問弁護士にやめた方がいいって言われてるんです」って掛け合うと、確認してみますって言って、じゃあ10年でいいですってなるんですよ。結構そういう話が多くて、実際僕も同じことを体験してまして。


いで

 とりあえずぶつけてみて、相手が何も言ってこなけりゃ儲けもん()


エンドウ.

 でも(印税の)パーセンテージに関しては、みんな頑なに抵抗するんですよ。半分よこせと。

 だから今働いている出版社の若い人たちもかわいそうですよね、上に言われた業務をやってるだけなのに、僕ら作家に文句言われて()


 話が逸れましたけど、FCAは海外の契約と比較して主張しているんだという事を伝えていかないと。ただの僕らのわがままだと言われてもイヤですから。音楽先進国ではこうなっているよ、と言っていかなければいけないと思ってます。


いで

 これからの音楽産業は配信が主流になってくると、音楽の利用開発のプラットフォームがどこにあっても問題なくなってくる。そうすると海外の出版社が「音楽作家にとって有利な契約書を用意するんでウチに預けませんか?」っていうことになったら、日本の作家が海外にどんどん流出する心配ってのはあるでしょ?


エンドウ.
 まさに流出してます、今。僕の周りでも外にチャンスを見出して、日本の音楽界は古い体質のままだからやってられないと、どんどん出て行ってます。

いで

 そうなると今度は作家と出版社だけの問題じゃなくて、JASRACNexTone*6にも関わってくる問題になってくるよね。

 要するに海外を拠点にして活動していく作家がどんどん増えるとJASRACNexToneの信託者が減っていくってことだから。


エンドウ.
 音楽市場の上位10カ国の売上はずっと上がってるのに2位の日本だけずっと下がってるんですよ。他は全部上がってるのに。つまり如何に日本がおかしいかを物語ってますよね。韓国もアメリカもイギリスもドイツもフランスも中国もずっと上がってるんです。日本だけですよ、下がってるのは。古い体質と昭和、平成の芸能をずっとやってる音楽業界ですから、日本は。
 いや~、この状態を憂いて立ち上がってくれる若者が出版社やレコード会社にいないかなぁと思いますよ。まぁいるんでしょうけど、著作権のことまではあまり見てないでしょうし()。僕らは僕らで自分で頑張るしかないですよね。

いで

 FCAが頑張ると喜ぶ出版社もいると思うんだよね。何も仕事をしない出版社が著作権存続期間で(曲を)抱えちゃっている中で、「あの曲は新しい利用開発がウチでできるかもしれない」と思ってる出版社が潜在的にはたくさんいるんじゃないかな、それこそ海外にも。例えば『北国の春』を台湾とか中国の出版社が契約したがってるとか。そうなると面白い。FCAの活動を応援する出版社が国内外から出てきてほしいよね。



03:これから 〜音楽作家が理想とする音楽出版社とのパートナーシップの構築〜


エンドウ.

 FCAでも考えているんですけど、音楽出版社(以下、出版社)と対話していくにあたって、何か旗印を掲げなければならないとなった時に、シンプルにまずは「対等な関係」でなければおかしいでしょう、と。一方的に送りつけられて、契約しないんだったら干すよ、みたいなのはおかしい。

 それから「自由度のある契約」のある契約ですよね。要は幅広い選択肢と柔軟性です。(出版社の印税の)取り分が50%か33%かの2択だけなんておかしいし、例えば5%、10%でやってくれる出版社が当然出てくるべきですから。

 3つ目に「透明性の確保」ですけど、作品管理の状況、利用開発してるかどうかについて出版社から作家への説明が尽くされているかですよね。我々、作家が把握できて、利用開発してないんだったら文句を言って、こういう利用開発をしてください、という協議があって、(出版社側から)「では、こういう方法はどうでしょう?」という提案があって、みたいなやり取りがあって、ようやくちゃんとした契約関係になりますから。

 最後に「国際標準」ですよね。こないだ(FCAの)著作権対策委員会で、国際標準の契約内容はもちろん、国際標準より先の「未来標準」っていう理想を求めていきたいという話になりました。日本がリーダーシップをとって、もっとクリエーターにとって良い契約っていうのはコレなんだよって世界にアピールできたらいいですし。


いで

 俺が思うに出版社はもう一度自分たちの役割は何なんだ、という”原点”に立ち返ってからスタートしないと。例えば契約書なんかでも、まず(作家に)送ってくる、俺はそれを読んで「この条件では飲めないから、上と話がしたい」って電話しても、「今、席外してるんで」とか言って出てこないのよ。出版社なんて契約書の処理と金の計算くらいしかしない、数人しか働いていない会社がほとんどなのに、なんで上司が電話に出れないんだよ(笑)。


エンドウ.
 やっぱり何で(楽曲を)預かってるか忘れかけてるって事ですよね。契約している曲を利用開発して、頑張って売るために預かっていることを分かって仕事している人が出版社にどれだけいるんでしょうか。

いで

 まぁ少ないと思うよね。事務手続きだけをやってる出版社の方が多いんじゃないの。


エンドウ.
 でも彼らはクライアントやタイアップ先と強く結びついているので、我々と全く対等な関係ではないんですよ。
 こういう話題が持ち上がって、「いで先生、よく言ってくださった!」となってもいざ自分が言えるかとなると、出版社と目を合わせることもできないってみんな言うんですよ、怖いって。全く対等でない。僕も実際、某音楽出版社に行って、もっとこういう契約にしてくださいってお願いしたんですけど、まぁできないし、今後エンドウ.さんとお仕事はできないですねって言われたんですよ。面と向かって言われましたよ。
 これって出版社に文句言うと干されるっていう都市伝説的な話がありますけど、全然現実で「これから先はあなたに仕事ありませんから」って初めて言われて、これは面白いなぁと(笑)。本当にこういうことがあるんだと良い経験でした。
 それから「透明性の確保」で言えば、僕は最近では10年契約だったら、今後10年の利用開発プランをくださいと(出版社に)言うんですよ。でもどこもくれないです。


いで

 1年だってできないんじゃない?(笑)


エンドウ.
 でも、あなたが給料の半分を持ってかれるとしたら、なんのプランもないところに給料半分渡します?って話なんですよ。でも彼らは何にも出してこないんですよ。ひどいなぁと。
 そもそもプラン以前に出版社の人に会ったことがある作家がほとんどいないんですよ。更に電話したことがある人もめったにいません。で、一方的に契約書が送られてくるんです。出版社じゃなくてレコード会社やクライアントから「契約書が送られてくるんでサインして送り返してくださーい」としか言われない。ですので、出版社とコンタクトを取ったことがある人がかなり少ない上に、契約書の内容も分からずサインする作家も沢山います。利用開発っていうものがこの世にあって、それを確認しなくては、と考える作家が少ない。
 僕が確認したところ、何もされてなくて、「リリース時に〇〇という深夜番組のエンディングテーマで週一で計4回流れましたよ」って言われたんですよ。だから、その後はどうですか?って出版社に聞いたら、「何もやってません。そのタイアップの為の契約ですから」と。いや、(契約期間が)10年間あるんですけど、その後は何もしてくれないんですか?「そうですねぇ」と平然と言ってくるんですよ。「え!何もやってくれないんですか?」って言ったら、「んー、じゃあ検討してみます」で終わりです。


いで

 (『北国の春』でも『すきま風』でも)売れたら、それで終わり。新たな利用開発なんてまず考えない。どちらもパチンコ台で使われた事があるけど、これもパチンコ台メーカーから来た話なのか、出版社が売り込んだのか俺らには分からない。冒頭で出た「透明性の確保」だよね。利用開発が不明瞭過ぎる。


エンドウ.

 でも何度か出版社に要求したこともあるんですよね?


いで
 もちろん。利用開発できないんなら返せ、と。まぁそう言っても絶対返さないけど。

エンドウ.

 利用開発するとは言わないんですか?


いで
 言わない(笑)。ひどい出版社なんか電話が繋がんないからね。そこまでくると完全な契約不履行だから。裁判も視野に入ってる。

エンドウ.

 そうなんですよね。僕も何かあったら裁判してみたいな、というのがあるので、相手が渋った時には毎回そのことを伝えるんですけど、そうすると意外とどこも妥協案みたいなものを出してくるんですよね。

 この間、ある音楽出版社に預けていた楽曲を返してくれって言ったら、「ちょっと勘弁してもらえないですか。確認したところエンドウ.さんの楽曲(アルバム曲)10曲契約している内8曲がカラオケ配信していないので、今後(利用開発として)カラオケ配信するのでどうでしょうか?」と。いやいや!10年前に預けた曲を今更カラオケ配信するって言われても、ですよ(笑)。当然お断りして解除してもらいました。


いで
 俺だって契約前に言うもん、(出版社に)プロモーションのメニューを出してくれって。だけど、放送局系の出版社が1、2社だけ、具体的な番組名や系列局のネットワーク番組名を出してきたのは。(作詞家)50年以上やってて、1、2社だけだよ?


エンドウ.

 かなりおかしい状態ですよね。利用開発プランを出す出版社って日本にあるんですかね?海外は言いますね。こうこうこういうプレイリストにピッチングするよ、とか。


いで

 だいたい大手の出版社は曲持ち過ぎなんだよ。2万曲とか持っててどうやって全ての曲を利用開発するんだって話だから。つまりさ、彼らはウチはこんなに沢山の曲(財産)を持ってるよってアピールしたいだけなんだよ。だから返してくれって言っても、減るのが嫌だから返さない。


エンドウ.

 先日、ある大手音楽出版社の若い社員さんとお会いして色々話したんです。出版社にこう言う不満を持ってて、お話聞かせてくださいよ、と。そしたら「あぁ確かに出版社は契約件数、例えば年間10曲契約するのが8曲になってしまってもしょうがない。契約件数よりも(契約してる曲が)1曲解約になる方が恥と考える」と言ってました。上の人たちはそう捉えるんで、解約になったらものすごい事件というか、何やってんだ!って感じらしいです。曲が出ていくことが怖いっていう風に聞きました。ですので、いで先生のおっしゃる通り(曲)数が減るのは絶対許されない。

 今では解約する人が僕の周りでも増えてきましたけど、解約=恥、あってはならない事、というのが出版社の本音だと強く感じましたね。


いで

 印税も0円、分配も0円なのになんで(曲を)持ってる必要があるの?どういうメリットがそっちにあるの?って(出版社に)聞くと「ん〜」って言うだけでさ。だったら「返せ」って言うと、また「ん〜!」って(笑)。


エンドウ.
 分かります(笑)。
 作家にとって、もう利用開発する出版社という姿が幻のような存在になっていると思うんですよ。だってプロモーションって昨今では出版社だけがやる事じゃないんですよね。プラットフォームがやる事だったり、クリエーター自身がやったり、いわゆるプロモーション会社がやったりすることで、権利を持ってる出版社がやるものだ!っていうのが果たして今のご時世正しいのか。
 今やSNSを使って自分で広告打てるじゃないですか。即ち広告代理店ってなんだろうっていう時代になってきているのと同じで、出版社って何だったんだろうねっという時代がいずれくるのでは?と思います。
 僕がよく例に出すんですけど、賃貸の礼金と同じで、礼金って何だったんだろうねっていう時代になり始めてる訳ですよ。礼金って何だ?ってみんな気づき始めてきて、段々なくなってきていますよね。利用開発してくれない音楽出版社も礼金みたいなもんかなと、僕なんかは思いますけどね(笑)。


いで
 最後に一つ言っとくことは、今回MPA(日本音楽出版社協会)要するに出版社の文句を言ったけど、作家自身もちゃんと勉強してかなきゃダメなんだよね。送られてきた契約書の契約年数をきちんと確認するとか、利用開発が何かを理解するとか、出版社の都合の良いようにはさせないぞ、という気持ちをみんなに持ってもらいたい。


エンドウ.

 いで先生がブログ*7で出版社に物申すをやってくださって、それをみんな読んで如何に自分たちが考えてなかったか、ようやく身に染みて、自分の権利がどうなってるか把握しなきゃいけないってことに気付かされて、相当盛り上がった訳ですよ。今後の人たちはなっていくと思いますよ。JASRAC前会長という立場の方が、あんな事を言ってくれたってのは何にも勝る勇気だったんで。

 出版社に物申す気持ちを持って良いんだ、と。遅いかもですけど、ようやくみんな持てたので。最近は相談も増えましたし。間違いなく意識がそういうところに向いてきてます。

 だからFCAとしてもそういうところを積極的に活動して、更に啓蒙していかないといけないなと思います、本当に。



*1 FCAアンケート「音楽作家の実態・意識把握調査」 アンケート結果2023 アンケート結果2021

*2 日本における音楽出版社の歩み 刊行:日本音楽出版社協会 発行年:2003(初版)

*3 標準契約書 音楽作家と作品プロモートの役割を担う音楽出版社との著作権契約として、FCAと音楽出版社協会(MPA)が共同して制作した譲渡契約書のひな形。

*4 MPAフォーム MPAが作成した著作権契約書の雛形
*5 CISAC 著作権協会国際連合 HP: https://www.cisac.org/
*6 NexTone 著作権等管理事業者 HP: 
https://www.nex-tone.co.jp/

*7 ブログ 酒と話 Vol.08-09「音楽作家からみた音楽出版社の問題点



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