Vol.20 音楽出版社との著作権契約問題(中編)

 


月に一回、いではくが飲み屋さんへ行って軽く酒とつまみをやりながらテーマに沿った話をする「酒と話」。このブログで特に反響が大きかった「Vol.08-09 音楽作家から見た音楽出版社の問題点」。音楽業界だけでなく、もっと広くこの問題の実情を知ってもらおうと、長年、音楽作家の権利擁護と社会的地位向上に取り組んできたFCA(日本音楽作家団体協議会)からエンドウ. 常任理事をお迎えして最近の著作権契約に対する活動を説明してもらいつつ、”今”の音楽出版社との著作権契約問題について語り合うスペシャル対談を企画しました!
FCAアンケートの実施(前編)」に続いて、今回は中編「著作権契約内容」です!お楽しみください!!

著作権契約内容

「標準契約書(著作権契約書FCA・MPAフォーム)」

音楽作家と作品プロモートの役割を担う音楽出版社との著作権契約として、FCAと音楽出版社協会(MPA)が共同して制作した譲渡契約書のひな形。

1988年バージョンと2001年バージョンがある。

2001年バージョンは、2001年10月の著作権等管理事業法の施行にあたり同法下の音楽出版社の位置づけを明確にするという目的で、文化庁が仲立ちしてFCAとMPAが協議して2001年3月に完成。1988年バージョンとMPAが独自に作成していた著作権契約書のひな形(MPAフォーム)を元に、これらを見直して作成された。

以降、種々の法律の制定やJASRACの管理委託契約約款の変更に対応して都度、改訂を重ねている。


エンドウ.常任理事(以下、エンドウ.)
 契約書の1条と14条に"利用開発"という文言がある。まず契約書の1条に契約の目的が定められていて、この契約は利用開発するためのものである、と書かれています。これ、昔は違ったらしいんですよね。2000年以前のMPAフォーム*は、契約の目的に「利用開発」という言葉さえ入ってない。つまり「譲渡するだけ」の契約書だったんです。ですので、僕はこの標準契約書に文句いっぱいありますけど、この契約書ができなかったらもっとひどい状態だった訳ですよね。
 少し話が逸れましたけど、1条、まずこの契約は「利用開発を目的としたものである」と。で、14条に「最大限利用開発の努力をする」という文言がしっかり明記してあるのに、利用開発してもらったことがあるって言ってる音楽作家(以下、作家)に僕は会ったことがないし、アンケートでもやっぱりされたことがないという回答が多かった。これはやっぱり契約の履行に問題があるなと。

それから契約書内容で問題なのが、契約期間ですね。

エンドウ.

 まず標準契約書の契約期間について少し説明させていただきます。

 2000年に標準契約書を作る時に契約期間の上限についてFCAMPA(日本音楽出版社協会)で双方言い分があったんですけど、調整できずにその部分についてはブランクにして当事者同士(音楽作家と音楽出版社)で決めろ、という形になったんです。で、3年経ったらもう一回現状がどうなのか見直そう、という取り決めがなされた。それでFCAMPA2004年から2007年にかけて話し合いをずっとやっていました。結局、具体的な年数の上限を決めることはできなかったんですが、音楽出版社(以下、出版社)は契約期間を長くしたいんです。なぜかというと契約期間が長くないと初期投資を回収できないからだ、と言うんですね。要するに作家を一人前に育てるには先行投資がいるんだから、それを回収するにはある程度の期間が必要だ、というのがMPA側の主張でした。

 ということなんですが、今、出版社に育成してもらっている作家なんてめったにいないですよ。昔はそういった事が実際あったんですか?


いではく(以下、いで)
 確かに昔はプロダクションなり出版社なりが若手の有望な作家だから、こいつにいっぱい仕事をやらして育てようとしてた所もありましたよ。だけど、今はプロダクションもましてや出版社が育てるなんてことはまずないと思うよ。

エンドウ.

 そもそもこの理屈が通用するのは自分たちが育てた作家だけですよね。外部の作家には通じないですよね、だって育てられてないんだから。


いで
 その通り。


エンドウ.
 確かに、ある音楽出版社には作家が何人かいるんですよ。けどその会社が取り扱っている楽曲は、その作家のだけじゃないんですよ。ありとあらゆる曲を持ってる。僕もその会社と契約してる曲がありますけど、何にも投資を受けてないわけですよ()。だから投資の回収に時間がかかるって言われても「いやいや何言ってるんだ、投資なんかされてない。初めて会いましたよ」って話ですから。

いで

 そもそも作家側が契約期間を決められないのはおかしい。更新制度があるんだから契約期間中の出版社のプロモート力を見て更新すればいいんだからね。何もしてくれなければ打ち切ればいいし、世話になったなと思ったら更新すればいいだけの話。今の歌のサイクルというか寿命とかを考えると契約期間は2~3年(が妥当)だろうね。



海外の契約内容ともずいぶん違うという話もありますが。

エンドウ.

 そうですね。まず、日本は著作権「譲渡」契約なんですよ。海外は管理委託、著作権は渡さない、というのがあって。それがまず大きな違いです。

 それからアドバンスですね。CISAC*アジア太平洋地域代表のベンジャミン・グー(Benjamin Ng)さんという方とお会いした時に、日本(の音楽出版社契約)はこういう状況なんです、と説明したら、「でも、アドバンスはもらえるんですよね?」と言われたんですよ。アドバンスって海外では著作権預かって、出版社がきっちり取り分を持っていく代わりに先払いするよっていう、まぁ規模は100万なのか1000万なのか人によって分からないですが。

 ただ僕も含め周りでそんなものをもらった人なんて一人もいないんですよ。それを言ったらビックリされました。「無いの?無いのにそんな契約なの!?」と。日本はスゴイねぇって感じでしたけど。


いで

 昔はアドバンスってあったんだよ。特にレコード会社専属作家の時代には。例え3万とか5万でも。ただ印税が発生するようになれば、その分は当然差っ引かれるんだけど。だから、今でもそういう風にするっていうなら、曲によっては預けてもいいかとは思うけどね。

 でもアドバンスもなければ利用開発もしない、それでなんで預けなきゃいけないのか。ましてやさっきも出てきたけど、LPの中の1曲とかね。なんで欲しがるのかねぇ。

 多分ね、もう音楽出版社自体もなんで(作家と)契約してんのか訳わかんなくなってると思うんだよね。何でもかんでもディレクターから〇〇という作家に発注しましたって話が来ると自動的に自分のところが預かるもんだと思い込んでやってるから。


エンドウ.
 おっしゃる通りですね。(FCA)著作権対策委員会でも出た話なんですけど、今働いている出版社の人たちは今までの慣習と上からの指示で、こういうものだっていう感じで作家に(契約書を)送ってきてるみたいで。若い作家達が、「いや、存続期間契約は嫌なんですけど」「自分の顧問弁護士にやめた方がいいって言われてるんです」って掛け合うと、確認してみますって言って、じゃあ10年でいいですってなるんですよ。結構そういう話が多くて、実際僕も同じことを体験してまして。

いで

 とりあえずぶつけてみて、相手が何も言ってこなけりゃ儲けもん()


エンドウ.

 でも(印税の)パーセンテージに関しては、みんな頑なに抵抗するんですよ。半分よこせと。

 だから今働いている出版社の若い人たちもかわいそうですよね、上に言われた業務をやってるだけなのに、僕ら作家に文句言われて()


 話が逸れましたけど、FCAは海外の契約と比較して主張しているんだという事を伝えていかないと。ただの僕らのわがままだと言われてもイヤですから。音楽先進国ではこうなっているよ、と言っていかなければいけないと思ってます。



いで

 これからの音楽産業は配信が主流になってくると、音楽の利用開発のプラットフォームがどこにあっても問題なくなってくる。そうすると海外の出版社が「音楽作家にとって有利な契約書を用意するんでウチに預けませんか?」っていうことになったら、日本の作家が海外にどんどん流出する心配ってのはあるでしょ?


エンドウ.
 まさに流出してます、今。僕の周りでも外にチャンスを見出して、日本の音楽界は古い体質のままだからやってられないと、どんどん出て行ってます。

いで

 そうなると今度は作家と出版社だけの問題じゃなくて、JASRACNexTone*にも関わってくる問題になってくるよね。

 要するに海外を拠点にして活動していく作家がどんどん増えるとJASRACNexToneの信託者が減っていくってことだから。


エンドウ.
 音楽市場の上位10カ国の売上はずっと上がってるのに2位の日本だけずっと下がってるんですよ。他は全部上がってるのに。つまり如何に日本がおかしいかを物語ってますよね。韓国もアメリカもイギリスもドイツもフランスも中国もずっと上がってるんです。日本だけですよ、下がってるのは。古い体質と昭和、平成の芸能をずっとやってる音楽業界ですから、日本は。
 いや~、この状態を憂いて立ち上がってくれる若者が出版社やレコード会社にいないかなぁと思いますよ。まぁいるんでしょうけど、著作権のことまではあまり見てないでしょうし()。僕らは僕らで自分で頑張るしかないですよね。

いで

 FCAが頑張ると喜ぶ出版社もいると思うんだよね。何も仕事をしない出版社が著作権存続期間で(曲を)抱えちゃっている中で、「あの曲は新しい利用開発がウチでできるかもしれない」と思ってる出版社が潜在的にはたくさんいるんじゃないかな、それこそ海外にも。例えば『北国の春』を台湾とか中国の出版社が契約したがってるとか。そうなると面白い。FCAの活動を応援する出版社が国内外から出てきてほしいよね。



後編(10/15リリース)に続く!最後は"音楽出版社とのパートナーシップ"について語り合います!!


MPAフォーム* MPAが作成した著作権契約書の雛形
CISAC* 著作権協会国際連合 HP: https://www.cisac.org/
NexTone* 著作権等管理事業者 HP: 
https://www.nex-tone.co.jp/


All Rights Reserved. Text & Images @ Godrillhas Production



今回のお店:わらやき屋 新宿店

このブログの人気の投稿

Vol. 31 回転木馬(メリーゴーランド)

再掲:音楽出版社との著作権契約問題(一気読みバージョン)

Vol. 32 一献歌