Vol.40 最後のブログ

月に一回、飲み屋さんで軽く酒とつまみをやりながらテーマに沿った話をする 「酒と話」。3年以上続いたこのブログも今回がラストです! そもそもいつ歌詞に興味を持ったのか? 中学生の時、春日八郎の「お富さん」をラジオで聴いて覚えて、歌詞を書き写した。「お富さん」の歌詞に興味があったんだよね。あの歌の歌い出しの意味がわからなかったの。「粋なくろべい、みこしの松」ってあって、こりゃ何のこと言ってんだ、と。 「粋なくろべい」は自力で調べて「粋な黒塀」だってことはわかった。黒塀ってのは、昔は板張りで塀を立てていて、それが腐らないように黒く塗るんだよ。俺が東京に初めて出てきた時に一軒だけ黒塀で囲われたでっかい家が赤坂にあったんで、「ここは何ですか?」って聞いたら、「ここはあんたじゃ入れない高級な料理屋だ」って。要するに料亭だよ。 で、次は「みこしの松」だ。みこしって言ってもお祭りの神輿じゃないんだよ。神輿の松じゃ訳わかんないからね。 急だけど、ここで山崎尚武先生という人の話を先にするとね、俺の中学生の時の担任であり、国語の先生だったの。この先生は大学を卒業して初めての赴任先が俺の村の中学校だった。だからまだ若くって、ちょっと年上の兄貴みたいな印象で親しみがあった。そこで、授業が始まる時に「先生、春日八郎の「お富さん」の歌詞に”みこし”の松ってありますが、どういう意味ですか?」って質問したら、先生が「よし!じゃあ今日の国語の授業は春日八郎と三橋美智也の話をしようか!」ってなった。まだ新任だし若いから柔軟だったんだろうね、授業時間を丸々それについて説明してくれた粋な先生なんだよ。で、「みこし」っていうのは「見越し」、塀越しに枝が出てることだって教えてくれた。つまり、粋な黒く塗った板塀から松の枝が出ているってことを知った。それがきっかけで俺は歌謡曲に興味を持つようになった。だから今、俺が作詞家でいる原点はそこにあるのかもしれない。 後年、俺が作詞家になってから長野県の教育関係の冊子にエッセイを書いてほしいという依頼をもらった時に、このエピソードを書いた。 山崎尚武先生はというと、その後もずっと長野県で教師を続けて、最後は長野県の教育委員会の中で重要なポストに就ていて、先生が亡くなられた時に親族の方から前述のエッセイのコピーを会葬御礼として配ってもいいですか...