Vol. 38 友情の星
だから誰が歌うとか、いつ、どこのレコード会社から出すとか具体的なことが決まっていた訳じゃなくて、「2人で何か良い歌が作れたら」くらいの感じだったんだよね。俺としては船村先生は演歌巡礼で全国を歌いながら回っていたんで、そういう時に歌ってくれればと思って(詞を)書くことにした。
船村先生といえば、ヒット曲「別れの一本杉*」のコンビで有名な高野公男*さん。その夭折した親友への鎮魂歌がいいと思って「友情の星」という詞を書いた。
その詞原稿を船村先生に渡したんだけど、残念ながら2017年に亡くなってしまった。船村先生と一緒に歌づくりをすることはついに出来なかったか…と思っていたある日、(船村先生の)奥さんから電話をもらった。内容は「遺品の整理をしていたら「友情の星」の原稿が出てきたんで、これを船村最後の弟子の村木弾に歌わせたい」という話だったの。こちらは立ち消えてしまったことだと思っていたので、「是非お願いします」と。それから「作曲は誰にしますか」と尋ねると、「息子の蔦将包*が曲をつける」ということだったので、「それは願ってもないことですから、進めてください」と返事をした。こうして思いがけない形で「友情の星」の制作が復活した歌なんで、俺にとっては思い入れの強い作品になった。
テーマはさっきも言ったけど「友情」。船村先生は酒飲みなんで、「一年に一度くらいは、酒を飲んでる時に俺の盃に降りてこいよ」という亡くなった友へのメッセージ。誰しも友達、親友と言える存在はいるだろうし、現に俺も今年、子供の頃からお互いにあだ名で呼び合っていた酒飲みの親友を亡くした。こういう普遍的なテーマは多くの人たちの共感を得ると思っているし、作曲した蔦さんも息子だから船村先生の気持ちをよくわかっていて、要所要所に船村節を入れ込んだ良い曲を付けてくれたんで、もっとこの歌が広がってほしいと思って、今回ピックアップした。
*船村徹 日本を代表する作曲家。2016年、歌謡曲作曲家として初めて文化勲章を受章。
*別れの一本杉 歌:春日八郎 作詞:高野公男
*高野公男 茨城県出身の作詞家。代表曲:別れの一本杉
*蔦将包 作曲家・編曲家。最新作:母さんの海うた(歌:村木弾 作詞:原文彦)