Vol. 38 友情の星

 


月に一回、飲み屋さんで軽く酒とつまみをやりながらテーマに沿った話をする 「酒と話」。新シリーズ『自分の中のヒット曲たち』の15曲目です!

“ 作詞生活50数年。600曲以上を作ってきた中で、売れなかった曲の方が圧倒的に多い。だけど、(売れなくても)作詞家として「良い歌が書けた」と思う歌がたくさんある。いつかその自分が気に入っている歌だけを集めた盤を世に出したいと思ってる。それが俺の作詞家としての集大成 ”

友情の星 歌:木村弾 作曲:蔦将包 2022年 / 日本コロムビア


2016年にJASRACの会長就任が決まって、元JASRAC会長の船村徹*先生のところに挨拶に行った時に「今まで一度も組んで仕事したことないから、会長就任記念で一曲2人で作ろうよ」と言ってもらったんで、「ありがとうございます、是非やりましょう」ということでこの歌づくりがスタートした。

だから誰が歌うとか、いつ、どこのレコード会社から出すとか具体的なことが決まっていた訳じゃなくて、「2人で何か良い歌が作れたら」くらいの感じだったんだよね。俺としては船村先生は演歌巡礼で全国を歌いながら回っていたんで、そういう時に歌ってくれればと思って(詞を)書くことにした。



船村先生といえば、ヒット曲「別れの一本杉*」のコンビで有名な高野公男*さん。その夭折した親友への鎮魂歌がいいと思って「友情の星」という詞を書いた。

その詞原稿を船村先生に渡したんだけど、残念ながら2017年に亡くなってしまった。船村先生と一緒に歌づくりをすることはついに出来なかったか…と思っていたある日、(船村先生の)奥さんから電話をもらった。内容は「遺品の整理をしていたら「友情の星」の原稿が出てきたんで、これを船村最後の弟子の村木弾に歌わせたい」という話だったの。こちらは立ち消えてしまったことだと思っていたので、「是非お願いします」と。それから「作曲は誰にしますか」と尋ねると、「息子の蔦将包*が曲をつける」ということだったので、「それは願ってもないことですから、進めてください」と返事をした。こうして思いがけない形で「友情の星」の制作が復活した歌なんで、俺にとっては思い入れの強い作品になった。



テーマはさっきも言ったけど「友情」。船村先生は酒飲みなんで、「一年に一度くらいは、酒を飲んでる時に俺の盃に降りてこいよ」という亡くなった友へのメッセージ。誰しも友達、親友と言える存在はいるだろうし、現に俺も今年、子供の頃からお互いにあだ名で呼び合っていた酒飲みの親友を亡くした。こういう普遍的なテーマは多くの人たちの共感を得ると思っているし、作曲した蔦さんも息子だから船村先生の気持ちをよくわかっていて、要所要所に船村節を入れ込んだ良い曲を付けてくれたんで、もっとこの歌が広がってほしいと思って、今回ピックアップした。



いかがだったでしょう?
次回はこのシリーズ『自分の中のヒット曲たち』最後の歌『代々おくり』を5/15リリースします。お楽しみに!

*船村徹 日本を代表する作曲家。2016年、歌謡曲作曲家として初めて文化勲章を受章。

*別れの一本杉 歌:春日八郎 作詞:高野公男

*高野公男 茨城県出身の作詞家。代表曲:別れの一本杉

*蔦将包 作曲家・編曲家。最新作:母さんの海うた(歌:村木弾 作詞:原文彦)


いではく プロフィール
作詞家。1941年、長野県南牧村生まれ。早稲田大学商学部卒。
主な作品:「北国の春」(千昌夫)/「すきま風」(杉良太郎)/「早春情歌」(小林旭)/「さっそく振込みありがとう」(順弘子)/「昭和流れ歌」(森進一)など。
JASRAC第16代会長(任期:2016〜2022年)

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