Vol.25 欅伝説

 


月に一回、いではくが飲み屋さんで軽く酒とつまみをやりながらテーマに沿った話をする 「酒と話」。新シリーズ『自分の中のヒット曲たち』の2曲目です!!

"作詞生活50数年。600曲以上を作ってきた中で、売れなかった曲の方が圧倒的に多い。だけど、(売れなくても)作家として「良い歌が書けた」と思う歌がたくさんある。いつかはそういう自分が気に入っている歌だけを集めて、例えばLP盤など形にして、もう一度世に問いたいと思ってる。それが俺の作詞家としての集大成 "

欅伝説 歌:さとう宗幸 1998年 / キングレコード


 昔、NHKが3年に一度のサイクルで(福島市)古関裕而音楽賞*という番組をやっていた。その番組は、一般の視聴者が「未来の〇〇へ」という形で書いた手紙を元に作詞家が詞を作って、作曲家がそれに曲を付ける、という3人の共同作業で1曲を作り上げて、披露するというものだった。その番組の当時のプロデューサーが勝田稔さん*という方で、参加しないかと声をかけてもらった。

 いくつか手紙を読ませてもらった中に、仙台在住の方が書いた「欅(けやき)へ」という、要するにその人が未来の欅に対して書いた手紙があった。たまたまそのちょっと前に俺は(故郷の)信州に山荘を建てて、夏の間とかちょっと休みがあると、そこへ行って気分転換をしていたの。その山荘の玄関近くに実生の欅が出ていて、「あぁ、こんな所にあると大きくなってくると家に枝がかかるし困るなぁ」と思いつつも、せっかく出てきたのに切るのは忍びないという思いがあって、その実生の欅が気になっていた時期と手紙の欅が重なったんだよね。それで欅の歌を書こうかな、と思ったわけ。



 欅は成長するとすごい硬くて強い、中々折れないという性質を持っているから、それと子供の成長とを重ね合わせた歌にできないかなぁと思った。それから4シーズン色んな姿を見せてくれる。春はすごく綺麗な若葉が茂って、夏はその葉っぱが鬱蒼と茂ると木陰を作って涼しさを与えてくれたり、秋は枯葉になって落ちてきて焚き火、冬は葉っぱが全部落ちて枝の隙間から陽射しを与えてくれる、そしてまた春には…と四季折々に趣のある木というのも歌にしやすかった。

 それから勝田プロデューサーの引き合わせでタッグを組むことになったシンガーソングライターのさとう宗幸さん*も手紙の作者と同じく仙台在住、仙台市の”市の木” *も欅だということもあって、不思議な縁を感じた。



 さとうさんが4分の3のワルツの素晴らしいメロディーを付けてくれて、出品した(第3回福島市)古関裕而音楽賞でグランプリを取ることができた。そして、それがきっかけで1998年にキングレコードからシングル『欅伝説』が発売された。
 自分の中ではすごく良い歌が作れた手ごたえがあったんだけど、残念ながら全国的なヒット曲にはならなかった。流行歌、歌謡曲だからもちろん流行るに越したことはないんだけど、たとえ流行らなくてもごく少数の人の胸を打つ歌というのも歌の良さだと思ってる。作った自分自身もこの歌のことを忘れられないし、だから今でも信州の山荘へ行けば、いつでもこの歌をかけて当時の想いに耽ったりしてる。子供の成長を願う親の気持ちを代弁しているし、聴くと心が休まる歌で、まぁ自分にとってはいつまでも色褪せない生涯の歌という風に思ってるね。


余談

山荘入り口近くに生えていた実生の欅の木は、樹齢20年以上の巨木になり、現在も堂々とした姿で立っている。


今回はこれまで。いかがだったでしょうか?
第26回は未発表曲『武蔵野物語 』を3月15日にリリースします。お楽しみに!

*古関裕而音楽賞 平成3年よりスタート。現在は福島市古関裕而音楽祭として毎年開催。

*勝田稔さん 元NHKプロデューサー。紅白歌合戦など色々な歌番組に携わる。

*さとう宗幸さん シンガーソングライター・俳優・司会者


【いではく プロフィール】
作詞家。1941年、長野県南牧村生まれ。早稲田大学商学部卒。
主な作品:「北国の春」(千昌夫)「すきま風」(杉良太郎)「早春情歌」(小林旭)「さっそく振込みありがとう」(順弘子)「昭和流れ歌」(森進一)など。
JASRAC第16代会長(任期:2016〜2022年)

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