Vol. 30 新宿ロマン
"作詞生活50数年。600曲以上を作ってきた中で、売れなかった曲の方が圧倒的に多い。だけど、(売れなくても)作者として「良い歌が書けた」と思う歌がたくさんある。いつかはそういう自分が気に入っている歌だけを集めて、例えばLP盤など形にして、もう一度世に問いたいと思ってる。それが俺の作詞家としての集大成 "
新宿ロマンは、バブルが弾ける前の新宿を舞台にした歌。当時、新宿は不夜城と呼ばれるほど賑やかな街で、明け方近くまで皆んなで飲んだり騒いだりしていた時代だった。その時の様子、大袈裟に言えば時代を表す歌を作りたかった。
講演の依頼があると「歌と時代の関連性、歌は時代の鏡だ」という話をすることもあるんだけど、やっぱり歌にはタイムリー感って必要だし、時代を反映した歌を作りたいと思ってる。
この歌は「北国の春*」の和田ディレクターからオファーをもらった。ちょうど徳間ジャパンから独立して、自分の(音楽)制作事務所を持っていた時だね。作曲は津村くん*で、歌謡曲には珍しくメロディーがすでにあった。そこに「都会の星は空が狭くてかわいそうだね」という仮詞が頭にだけ付いていたの。いわゆる曲先で、それを見て「これは使えるな」と思って、都会の夜をテーマに決めた。さらにビルの乱立する新宿の夜の賑わいと更けていく様を色で表現したら面白いんじゃないかと思って書いた。
宵の口は”レモンイエロー”、だんだんヒートアップしていってドンチャン騒ぎをやってるような時間帯を”マリーゴールド”、夜が明けて空が白み出したところを”ブルーパープル”という時間を色で表現した。
この時間の経過を色で表すという手法は当時誰もやってなかったはずだし、個人的に新しい、手ごたえのある歌詞が書けたなと思ってる。それからさっきも言ったけど、昭和の景気のよかった時代の雰囲気を伝えたいという意味でも、この歌をもう一度復活させたいんだよね。
余談だけど、新宿ロマンはじめ、このシリーズでは過去のLPに入っていた歌の中からピックアップするものが多い。それはシングル盤ほど力を入れてプロモーションされてないから、もう一度!という想いもあるんだけど、もう一つは自分の中でチャレンジングな歌詞を書けているからっていうのもある。プロモーションとは矛盾するんだけど、LP盤の中の1曲ってシングルほど「売らなきゃ」というプレッシャーがない。遊び心を持って作ってもOKだからチャレンジングなことができる。これは作詞家だけじゃなくて、作曲家、歌手もそう。
例えば、望郷歌が得意な歌手のLPが全部望郷ものだったら、それはそれで面白くない。だから歌手の新境地が開拓できるかも、と思ってLP曲ではディレクターが色んな作家を使ったり、今までにない路線の歌に挑戦してみたりとチャレンジして、受け入れられるかどうか、聴いた人の反応をみる場でもあったんだよね、LPは。それで歌手の新しい一面が引き出されて、違う路線でヒット曲が出ればラッキーというような良い循環が昔はできてた。今の時代はよほど売れている歌手以外はそんな余裕のある作り方ができなくてかわいそうだよね。