Vol.16 酒


月に一回、いではくが飲み屋さんへ行って軽く酒とつまみをやりながらテーマに沿った話をする「酒と話」。今回は横浜中華街にある広東料理のお店「獅門酒楼」にて『酒』について語ってもらいました!


いつから酒を飲み始めた?

 (笑) まぁハタチからってことにしとこうか(笑)。本当はちょっと前だけど(笑)。


 最初に飲んだ時は「うまい!」とは思わなかったね。「まぁこんなもんか」って感じで、学生時代だから、うまいまずいじゃなくて勢いで飲んでるようなもんだった。酒の味がホントに分かるようになったのは何年か後だったね。

 暑い時のビールなんかは最初の2、3杯は「美味いなぁ」と思ってたけど、スピリッツ系の酒は若い時は美味いっていうよりも、ちょっと粋がって飲んでた。だんだんその酒が美味くなってくるって感じで、はじめのうちは水割りでウィスキーなんか飲んでても、酒の味がわかってくると「ロックで飲みたいな」ってなっていったかな。

 ホントに色んな酒飲んだけど、一番飲んでないのはカクテルだね。まぁそういう洒落た店で飲んでこなかったってのもあるんだけど(笑)。

 量で一番飲んでるのは圧倒的にビール。それから若い時は結構日本酒も飲んだ。やっぱり時代的にも、その辺の飲み屋で軽く一杯やるか、なんて話になるとどうしてもビールの後は日本酒になったね。昔は洋酒系が少なかったから。それから焼酎はブームになってから飲むようになった。イモ焼酎なんかははじめのうちは匂いが気になって飲まなかったけど、匂いがそれほどキツくないのも出てきて飲むようになった。昔の薩摩のイモ焼酎はかなり強烈な匂いがしたからね。


 酒ってのはその土地土地の文化だからね。九州へ行けばやっぱり焼酎飲む人が多いし。俺が焼酎を初めて飲んだのは何十年前か博多に行った時にね、(当時の)博多市長と飲む機会があって、そん時に(焼酎と水の)割り方を6:4とか7:3とか聞かれて、最初何言ってるかわからなかったのを覚えてる。それくらい馴染みのない酒だった。その時に九州で酒といえば焼酎なんだ、と思った。



アサヒスーパードライ

 『すきま風*』がヒットして、(CBS)ソニーの小澤(元)社長*に招待されて、神楽坂の料亭で酒をゴチになった時に、初めてスーパードライというビールを飲んで、衝撃を受けた。「いや〜こんなに美味いビールがあるんだ!」って思ったもん。それまでは圧倒的にキリンのラガーばっかりだったからね。それかサッポロとか。

 そこにスーパードライが出てきた時には凄いビールだなと思ったね。それからはずっとスーパードライばっかり飲んでたけど、近頃はさすがに飽きてきて、他のビールを飲むようになったけどね。

 あん時はアサヒビールの株価は安かったから、こんな美味いビール出すんだからアサヒビールの株は上がる!と思ったんだけど、次の日になったらすっかり忘れちゃった。株買ってりゃ儲かったろうなぁ(笑)。


青森ー上野

 45年前、俺は遠藤先生*の秘書、作詞家、渥美二郎*さんという歌い手が所属してた日本ブレーン*という芸能プロダクションの役員という三足の草鞋を履いてた。

 渥美二郎さんがデビューしたばっかりの頃に青森で大きなキャンペーンがあって、俺もそのプロダクションの人間として行ったの。で、その帰り、青森発ー上野着の特急列車の車内でディレクターの成瀬さん*と向かい合って酒を飲み始めたの。車内販売が来るたんびに2、3本ずつ酒を買って飲んでたら、上野に着く頃にはワゴンに積んでた酒が売切れになっちゃった。ほどんど2人で飲んだ(笑)。当時、青森ー上野間が8〜9時間くらいだったのかなぁ、多分。その間、ずーっと飲みっぱなし(笑)。



宴席の酒

 遠藤先生とコンビでたくさんのご当地ソングを作った。そうすると発表会があるんで、それに出席する。で、終わると宴席を設けてくれる。

 先方は市長とか町長、役所の人たちなんか入れて10人以上が参加するわけ。こっちは遠藤先生と俺だけでしょ?作詞・作曲だから。それで、宴席が始まると礼儀的にも一人ずつ「まずは一杯」って注ぎに来てくれる。遠藤先生は酒飲まないから、俺が全部飲むことになる(笑)。

 結局、宴会中ひっきりなしに飲むことになるんで、きついのよ(笑)。というのも酒は自分のペースで飲むから「美味い」とか「楽しい」ってなるんであって、次から次へと「はい、お流れだ、ご返杯だ」とやられると何で酒飲んでるのか分かんなくなる(笑)。


昔の音楽業界の酒
 昔は付き合いって言ったらまず酒だった。ゴルフなんかだと一日かかるけど、酒だと夜の数時間で済むから、酒席ってのは手っ取り早いコミュニケーションの手段だった。酒飲んでバカ話してると楽しいし、酔っ払えば本音も出るし、当時の音楽業界では酒は切っても切り離せないものだったね。
 バブルの時でも、俺は銀座で酒飲むことはあんまりなかったね。というのは銀座で酒を飲むと帰りのタクシーが大変だったのよ。要するに道に車が溢れちゃってて、タクシー呼んでもらっても、飲んでた店から結構歩いて乗らなきゃいけない。それも嫌だったし、高級なクラブで飲んでもそんなに面白くない(笑)。性に合わないんだよ。やっぱりは飲むっていうと新宿とか四谷界隈の居酒屋が多かったかな。だからよっぽどの付き合いでもない限り、銀座で酒飲まなくてもいいよ、と思ってた。まぁ今でもだけどね。

 昔のレコーディングは9時10時に終わって、それからメシだ、酒だ、になる。遠藤先生は酒は飲まないけど食うのは好きだったから、新宿でレコーディングが終わると5、6人で焼肉屋に行って、「はい、上ミノ10人前、上ロース10人前、上カルビ10人前」とかって何でも10人前ずつ注文するのよ、遠藤先生(笑)。「そんなに食えねぇよ…」っていつも思ってた(笑)。

 遠藤先生はそれで帰るから、その後ディレクターとかとの飲みの付き合いは井出君がやれって2軒目に行く感じだったかな。

 今のレコーディングじゃ考えらんないよね。特にコロナになってからは酒どころじゃないよね。



 これは俺の作品好きな人だったら分かると思うんだけど、酒好きってこともあって歌詞に酒が一番多く登場してる。でもまぁそれだけじゃなくて、俺は男歌が圧倒的に多いから1コーラスから3コーラスまでのどっかには酒にちなんだ文句が出てくるね。あとは心理描写とか情景描写とか酒は小道具にしやすいってのもあるし。


 それから、最近「俺は一生の間にどのくらいの酒を飲むんだろう」ってふと思うんだよ(笑)。病院入ってる時以外は毎日飲むんだから、ものすごい量なんだろうけど…。

 若い時なんかは甘いものは全く食わない、ツマミもろくすっぽ食べない、とにかくツマミで腹一杯になるよりは酒を腹に入れたいって感じだったし。

 小学校のプール一杯くらいは飲んでんだろうなぁ…。


 え!もう30分以上喋ってる?酒の話だったらいくらでもしゃべれるな(笑)。




今回はこれまで。いかがだったでしょうか?
第17回はスペシャツ企画『東京競馬場でガチで競馬をやる!』を6月15日にリリースします。お楽しみに!

*すきま風 歌:杉良太郎 作曲:遠藤実 編曲:京建輔
*小澤社長 故・小澤敏雄氏(1926-2020) 元CBSソニー社長
*遠藤先生 故・遠藤実氏(1932-2008) 昭和を代表する作曲家
*渥美二郎 演歌歌手 代表曲「夢追い酒」
*日本ブレーン(株) 渥美二郎、祭小春、順弘子等が所属していた
*成瀬さん 故・成瀬昭夫氏 CBSソニーのディレクター 杉良太郎、渥美二郎等を担当

【いではく プロフィール】
作詞家。1941年、長野県南牧村生まれ。早稲田大学商学部卒。
主な作品:「北国の春」(千昌夫)「すきま風」(杉良太郎)「早春情歌」(小林旭)「さっそく振込みありがとう」(順弘子)「昭和流れ歌」(森進一)など。
JASRAC第16代会長(任期:2016〜2022年)


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今月のお店:獅門酒楼


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