Vol.14 サブスクリプションと専業作家の今後(前編)

 


月に一回、いではくが飲み屋さんへ行って軽く酒とつまみをやりながらテーマに沿った話をする「酒と話」。今回は第1回でもお世話になった荻窪にある行きつけの飲み屋さん「寄港地」にて『サブスクリプションと専業作家の今後』について語ってもらいました!前後編に分けてお送りします。


サブスクリプション

 音楽を楽しむってのは音楽を聴いたり、歌ったりってのはもちろんなんだけど、コレクションするっていうのもあると思うんだよね。日本人特有のコレクション趣味的な感覚で"物"が欲しい、というのがあるからなのか、日本はちょっと前まで割合いパッケージが売れてた。でも、だんだんそれも無くなってきて、ただ聴くだけだったらパッケージはいらないと。

 安価な月額制で好きなだけ好きな曲を聴けるスタイルになってきてるんで、そうなると作家の印税は厳しくなっていくよね。というのはサブスクってのはサービスを提供する会社がJASRACに支払うのはグロスで年間いくらってやり方だから。つまり曲が増えれば増えるほど分母だけが大きくなっていって、1曲あたりの単価は下がるわけ。だから、こういう方式でずっとやっていったら、まず作家は痩せてくだろうなってのはあるよね。



 消費者にとっては良い時代になったのは間違いない。所有物ではなくなるけど、聴くだけなら毎月1000円もしないで、何百万曲も聴けるっていうね。昔なんかは小遣いためてLPとかCD1枚買って、っていう時代だったんだから。
 今はお金をあんまりかけずに自由に好きな歌を聴けるんだから昔に比べると音楽は身近になってるし、享受している人の数は(昔に比べて)遥かに多い。ただ、みんなが楽しんでくれるのは良いことだけど、皮肉なことにっていうか、作家は苦しくなっていく。このねじれというか矛盾を解決するには、やっぱり使用料のグロスをもっと増やすしかない。これを交渉するのが日本ではJASRACとかNexTone*。毎年、単価が上がるように交渉してるんだけどね。
 実際にJASRACの配信の徴収額*は上がってる。一番落っこってるのは録音物ね、CDとか。演奏権は横ばい。だから全体的に右肩上がりなんだよ。ただ、分配する一人ひとりに対する金額は作っている作品傾向次第というところかな。


 それかカラオケみたいに誰がどの曲を何回利用したかが数値化できれば良いんだけど。例えば「北国の春」がLINE MUSICで1年間に1万回聴かれたから、いくら支払ってください、みたいにできればベストだよね。これは技術的には難しくないのかもしれない。けど、そういった曲単価方式を採用するか否かは別の話。配信会社側がウンというかどうか。まぁ悩ましいところだよ。



作詞家という職業が成立するのか

 作曲家の方はそれでも曲だけ使われるってことがあるから。例えば映画やドラマの背景音楽とか、歌じゃなくてもメロディーに対する仕事はこの先もなくならないと思う。

 逆に作詞家ってのは歌ものが使われてわれてなんぼ。だからどうしても印税に頼らなければならないところがある。それが十分に入ってこないってなると作詞家の方がしんどくなってくだろうね。だから作詞だけで生活しているというプロフェッショナルがいなくなる可能性はかなりある。


 俺個人はサブスクの影響はさほど受けてない。ストリーミングの収入もなくはないけど、俺の主たる印税収入は演奏権だから。つまりカラオケとか公演とか。

 だけど、若手作家の主戦場は若者相手の楽曲制作なわけでしょ。そうするとサブスクみたいに曲に対する単価が低いってのは死活問題なんだから、やっぱり今の状況は大変だと思うよ。

 だから作家がどこまでモチベーションを持ってやれるかってのもあるよね。メシ食えないなら、他に仕事しなきゃならないんだから。この先、副業で音楽作家をやる人の方が多くなるかもしれないね。



後編(4/15リリース)に続く!次回は"音楽作家の未来"について語ります。

NexTone* 音楽著作権管理事業者 HP: https://www.nex-tone.co.jp

【いではく プロフィール】
作詞家。1941年、長野県南牧村生まれ。早稲田大学商学部卒。
主な作品:「北国の春」(千昌夫)「すきま風」(杉良太郎)「早春情歌」(小林旭)「さっそく振込みありがとう」(順弘子)「昭和流れ歌」(森進一)など。
JASRAC第16代会長(任期:2016〜2022年)

All Rights Reserved. Text & Images @ Godrillhas Production

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